令和3年度大学入試共通テストについて

 6月19日に文部科学省から「令和3年度大学入学者選抜実施要項について」の通知が発令された。
https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/senbatsu/mxt_kouhou02-20200619_1.pdf
 これを受けて大学入試センターは,6月30日に「令和3年度大学入学者選抜に係る大学入学共通テスト実施要項」を公表した。
https://www.dnc.ac.jp/albums/abm.php?f=abm00038409.pdf&n=%E4%BB%A4%E5%92%8C+3+%E5%B9%B4%E5%BA%A6%E5%A4%A7%E5%AD%A6%E5%85%A5%E5%AD%A6%E8%80%85%E9%81%B8%E6%8A%9C%E3%81%AB%E4%BF%82%E3%82%8B%E5%A4%A7%E5%AD%A6%E5%85%A5%E5%AD%A6%E5%85%B1%E9%80%9A%E3%83%86%E3%82%B9%E3%83%88%E5%AE%9F%E6%96%BD%E8%A6%81%E9%A0%85.pdf

 これらの内容は「入試改革を考える会」として4月23日に萩生田文部科学大臣に宛てて提出した要望書(https://note.com/anti_kaikaku/n/n130435484532)と大きく関連するので,文部科学省の「通知」および大学入試センターの「実施要項」を読んだ所感を述べます。なお,これは「入試改革を考える会」としての正式な見解ではなく私(吉田弘幸)の個人的な見解です。

 まず,「通知」と「実施要項」から明らかになった事実を確認しておきます。

 「通知」は,大学入学共通テストについて
第1日程 令和3年1月16日,17日
第2日程 令和3年1月30日,31日
特例追試 令和3年2月13日,14日
の3回実施すると定め,第2日程は,第1日程の志願者が疾病等により受検できなかった場合の追試と利用するほかに,新型コロナウイルス感染症の影響に伴う学業の遅れを生じた者の受検も認めるとしている。特例追試は,第2日程の志願者が疾病等により受検できなかった場合の追試と利用する。そして,特例追試を受検した受験生も選抜に出願できるよう配慮することを各大学に要請している。また,各大学の個別試験では,高等学校第3学年でも履修することの多い科目(数学Ⅲ,物理,化学,生物,地学,世界史B,日本史B,地理B,倫理,政治・経済など)の個別学力検査において,入学志願者が解答する問題を選択できる出題方法とするなどの配慮を行うことや,教科書において「発展的な学習内容」として記載されている内容から出題しない,あるいは出題する場合においても,設問中に補足事項等を記載するなど,特定の入学志願者が不利にならない設問とすることなどの工夫を行うことを求めている。
 一方,「実施要項」によれば,大学入学共通テストについては,出題範囲の削減や選択問題の設定は行わずに,既に準備済みの問題をそのまま使うようです。今年度までの「センター試験」では理科については,おそらく高3生の学習進度を配慮して選択問題が設定されていました。また,特例追試は,「大学入学共通テスト出題教科・科目の出題方法」には従わないとされています。「数学①」は新テストと試験時間も異なります。その後,特例追試は平成27年度にセンター試験の予備問題として準備されていたものが使われることが判明しました。したがって,英語に関しては新テストとは問題構成がまったく異なります。また,国語の現代文も問題形式が大きく異なることになるでしょう。

 さて,以下に私の見解を述べていきます。

1 学習の保障にはまったく資さないこと
 第2日程の設定は休校措置により学習の遅れを生じた高3生に配慮したものとされているが,これはまったくその目的を達成できない。休校期間は3ヶ月に及んでいる。わずか2週間では学習の保障としては効果がない。
 また,第2日程ではもともと追試として準備された問題が使われる。異なる問題であれば,当然,難易度にも差が生じる。受検する集団が異なるので,事後的に難易度の違いを検証することは不可能である。そうすると,第2日程を受検する資格のある高3生は,いずれの試験を受けることが有利であるか自分で判断しなければならない。不必要な負担を強いることになる。
 試験の公平性を保ったまま学習の遅れを補償するのであれば,第1日程の実施を月単位で遅らせる必要があった。

2 共通テストとしての機能を破壊すること
 第1日程と第2日程の問題の難易度を揃えることは不可能であり,得点調整も不可能である。したがって,共通テストとしての公平性は大きく毀損される。さらに,特例追試は形式も異なる試験である。共通テストとしての機能を完全に破壊することになる。

3 共通テストに対する指摘を有耶無耶にすること
 共通テストについては,その内容面に関して多くの問題の指摘があった。しかし,新型コロナウィルスの騒動もあり,十分な議論が行われることなく,謂わば混乱に乗じて新テストの実施が強行されようとしている。
 世界規模の緊急事態である。疑義の出ている新しい制度の実施は一旦停止して,混乱終息後に十分な議論を行った後で,改めて新しい制度への移行を図るべきである。

4 各大学に求めること
 今後の新型コロナウィルスの感染拡大の状況によっては,50万人が受検する共通テストは,その実施自体が不可能となる可能性も大きい。そのような場合にも公平で公正な入学選抜が実施できるように各大学は準備を整えて欲しい。
 公平な試験としての実施が不可能となった共通テストの使い方については,最終選抜への配点を極めて低くするか,2段階選抜にのみ使う(さらに,通常よりもハードルを下げて使う)ことを期待する。

 今後も気づいたことがあれば随時追記します。(文責:吉田弘幸)

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