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魚を食べるサル

ヒトは毎日のように水中の生き物を食べています.海や川の魚,海藻,タコやエビ,などなど.ですが,われわれヒトは,サルの仲間です.陸上で植物や昆虫を食べるように進化してきたサルが,水中の生き物を食べるというのも,よく考えてみるとおかしな話です.

では,ヒト以外のサルは,どのくらい,水中の生き物を食べるのでしょうか…? 今回紹介するのは,これまでになされた研究報告を集めてきてまとめて解析し (メタ解析といいます),ヒト以外の霊長類はどのくらい水中の動物を食べるのかを網羅的に調べた研究です*1.


魚を食べるサルはどのくらい?

まず,世界中に現存する霊長類は約220種程度です*2.このなかには研究がまったくなされていない種もいるかもしれませんが,大部分に関しては,何を食べるかといった基本的なデータが得られています.

Russon博士たちが,こうした世界中の霊長類について,これまでに調べられて報告された研究事例をメタ解析したところ,20種の霊長類について (図1),水中の動物 (魚や軟体動物など) を食べるということがわかりました.霊長類全体として見ると,水中の動物を食べる種は,あまり多くはないようです.


図1. アブラヤシの実 (陸上植物) を食べているカニクイザル.このサルは名前のとおり,水中の動物をよく食べます.


なぜ魚を食べる?

水中の動物を食べる霊長類20種についての報告は,合計で35の調査地からもたらされていました.このうち29の調査地では,ヒトの影響がサルの行動を大きく変えたと考えられています.20の調査地では地元民が近くに住んでおり,さらにそのうち15の調査地では,近くに住む地元民が狩猟採集や漁撈を営んでいました.

地元民が水中の動物を捕り,そのゴミを放置したものがサルに食べられていたり,ヒトが漁をするのを見て,サルが真似をするといったプロセスによって,サルの食べ物レパートリーのなかに水中の動物が加わってしまったと考えられるのです.


オランウータンの例

さらにRusson博士たちは,この研究のなかで,インドネシアのボルネオ島に暮らす半野生のオランウータンについて,水中の動物を食べる行動を記録しています*1.

観察の結果,以下のようなことがわかりました.オランウータンは水をあまり好まないと言われていますが,魚を食べていた一部の個体では,水中を歩いているところも目撃されました.

●ヒトの影響がある (幼少時に人間に飼われていたオランウータンも対象に多く含まれる,罠にかかった魚をオランウータンが盗る、地元民の漁撈を見て真似をする,など)
●積極的な魚釣りというよりは,浅瀬に打ち上がったり死にかかったりしている魚を機会的に食べている
●食べられているのはほとんどがナマズの仲間である
●主に,好奇心旺盛な若い個体が,捕って食べている


最後に

全体から見ると少ない割合ではありますが,20種もの霊長類で,水中の動物を食べる行動が見られていたのは驚きです.しかもそれにヒトの影響が関係しているかもしれないとは! それでは,ヒトと接触する以前のそうしたサルでは,水中の動物を食べる行動はどのくらい一般的だったのでしょうか…調べてみたいものです.

(執筆者: ぬかづき)


*1 Russon AE, Compost A, Kuncoro P, Ferisa A. 2014. Orangutan fish eating, primate aquatic fauna eating, and their implications for the origins of ancestral hominin fish eating. J Hum Evol 77:50–63.

*2 世界の霊長類、その歴史、現生種の系統図、写真|霊長類研究所

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