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あくびの長さ

誰かが話している最中にあくびをすると,その話が退屈なんだというふうに解釈されてしまうことがよくありますね.でも私の場合,眠気もなく退屈でもないときでも,なんだか勝手にあくびが出てきて,「ふぁふぁ……」と止まらないことがよくあります.

あくびにどんな機能があるのかについてはまだ議論が続いていますが,血流を促進することで,脳を覚醒させたりするのに効いているという解釈が,いまのところ支持されているようです.

あくびは脊椎動物に広く見られるため,進化的に保存された行動であると考えられています.しかしこれまで,動物種によってあくびの頻度や長さがどう違うのか,きちんと調べた研究はほとんどありませんでした.


あくび@Youtube

そこで,Gallup博士たちの研究チームは,さまざまな動物 (哺乳類) について,1回のあくびの長さに関するデータを集め,すでに報告されている脳の大きさのデータと比較しました*1.

あくびの長さは,なんとYoutubeから集められました.哺乳類があくびをしている場面が映っているビデオを探し,始まりから終わりまでの長さについてのデータが集められました.

その結果,24の分類群の177個体について,205回分のあくびの長さに関するデータが得られました.ネズミからヒトやチンパンジーまで,さまざまな動物のデータが含まれています*2.以下にいくつか例を示します (ハリネズミのあくびは本当にかわいいので必見です!).


あくびと脳

このデータを分析した結果,動物種ごとの平均的なあくびの長さは,脳サイズと強く相関していました.脳サイズが大きいほどあくびが長い傾向があり,体の大きさの影響を除外しても,あくびの長さは脳サイズと相関しました.また,比較的大きな脳をもつ霊長類は,ほかの哺乳類と比較して,あくびが長いという結果も得られました.

この研究結果は,あくびが脳の覚醒に効くという議論を支持するのではないか,とGallup博士たちは議論しています.また,これまであまり研究されてこなかったあくびについて,将来の研究の可能性を示す成果でもあります.


おわりに

あくびが,必ずしも退屈を示すのではなく,脳の覚醒に効くのだとしたら,あくびはこれまで不当な偏見にさらされてきたのかもしれません.しかし,生物学的にはこうした機能があったとしても,あくびを退屈のシグナルとして見るヒトの文化もたしかに存在しています.人類学者の視点から見ると,そうした「生物」と「文化」の食い違いも,興味深い研究テーマです.

(執筆者: ぬかづき)


*1 Gallup AC, Church AM, Pelegrino AJ. 2016 Yawn duration predicts brain weight and cortical neuron number in mammals. Biol Lett 12:20160545.

*2 内訳は,アフリカゾウ,ラクダ,オマキザル,ネコ,チンパンジー,イヌ,キツネ,テナガザル,ゴリラ,ハリネズミ,ウマ,ヒト,ライオン,マーモセット (サル),ネズミ,オポッサム,ウサギ,ラット,アカゲザル,ヒツジ,リス,セイウチ,シロガオオマキザル,とのことです.

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