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シリーズ「新型コロナ」その30:成功例・ドイツ(メルケル首相)

■ドイツのメルケル首相

https://precious.jp/articles/-/18886
https://www.vogue.co.jp/change/article/female-leaders-fighting-covid19

アンゲラ・メルケル(65歳)は、ドイツ史上初めての女性首相。量子物理学・量子化学の博士号を持つ。
「東西ドイツ統一以来、いや第二次大戦以来の試練だ」
ヨーロッパで感染拡大の兆しが見えた3月18日、東側で育った自らの経験を踏まえたメルケル首相のテレビ演説での真摯な呼びかけは、国民の、いや世界中の人の心を打った。
「移動や旅行の自由を勝ち取った、私のような者にとって、こうした制限は絶対に必要な時にだけ正当化される」。
これは、世界史に残る名演説だ。危機に瀕した国民へ贈るメッセージのお手本のようだ。要点をおさえ、情理を尽くしている。これを読むと、彼女はドイツ国民にだけ訴えるのではなく、全世界の人に向けて語っているかのように聞こえる。すべての人の「母親」からのメッセージと言っても過言ではないだろう。
https://japan.diplo.de/ja-ja/themen/politik/-/2331262
3月11日の記者会見では、「最悪の場合、人口の70%までが感染する可能性がある」と、楽観論を排し、国民の危機意識を高める努力も怠らなかった。
国境閉鎖などの強行措置、他者との接触を減らすことの大切さも理解され、危機的状況において頼れる指導者として、4月に入って支持率も64%と急増し、ここ数年での最高値を記録している。

■ドイツの具体的対策

〇まず、特筆すべき事項として、ドイツは第二次世界大戦の苦い経験を踏まえ、中央に権力を与えすぎないよう、16の州からなる連邦制を敷いている点を挙げなければならない。
〇国内で感染者が確認される前、1月の段階で、すでに国内の感染症研究所の協力のもと、検査体制の拡充が始められた。
〇感染が拡大した時期には、週におよそ30万件もの検査がおこなわれた。
〇外出制限や同居人以外との3人以上の集会の禁止など、人との接触を制限する行動指針が明確に指示された。
〇もともと国内の医療体制が整っていたうえに、医療崩壊を招かない厳格な措置がとられたことも功を奏した。
〇ドイツの経済支援の手厚さ、迅速さに関しては、このシリーズ28ですでに紹介したが、簡単に言うと、「労働時間口座制度」や「操業短縮手当制度」など、コロナ以前から独自の社会保障制度が充実していて、国民もそうした制度を使い慣れていた、という点が重要だろう。また、アーティスト(特にフリーランスの)に対する手厚い支援も世界の瞠目の的となったが、これについては以下に詳述。
〇4月15日には世界に先駆けて、コロナ規制の一部緩和を発表。5月から学校や書店、美容院などの小規模店舗の営業も再開。
〇4月23日の記者会見では、「私たちはまだ“薄氷”の上を歩いている状態だ」と、気を緩めないよう国民に釘を刺した。
〇4月時点で報告されている死者数は5976人。一見多く感じられるが、隣国のイタリア(約2.7万人)やフランス(約2.3万人)と比較すると、その被害規模は最小限に抑えられている。

■ドイツの文化・芸術支援について

https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_5e9907b1c5b63639081bf438?ncid=other_twitter_cooo9wqtham&utm_campaign=share_twitter

「アーティストは、いま生きるために必要不可欠な存在である」
ドイツ連邦政府の文化メディア担当のモニカ・グリュッタース大臣のこの言葉が注目されたが、内情を調べると、どうやらアーティスト支援の立役者は連邦政府ではなさそうだ。

連邦政府は、文化分野のための救済策として、次の3本柱からなる提案をした。
〇「即時支援(経費などに当てられる)」に500億ユーロ(約5.92兆円)
〇「個人の生活の保護(半年間の生活保護審査の緩和、児童手当の利用など)」に100億ユーロ(約1.2兆円)
〇「法的措置の緩和(家賃や保険料の据え置きなど)」

これに対して、フリーランスのアーティストから異議が唱えられた。
〇私たちには、連邦政府の提案する「即時支援」の対象となる経費はない。
〇半年間の生活保護による生活費支援というが、私たちは失業しているわけでも、仕事を探しているわけでもない。国による「職業の禁止」を受けているのだ。

こうした主張でオンライン署名が呼びかけられ、すでに30万筆に迫る勢いだという。
「グリュッタース文化大臣の救済政策は、芸術、文化に関わっている人たちの大半が、どういう風に働き、お金をやりくりして暮らしているのかを知らない人が提案したとしか思えない。彼女の言葉は空約束だ。」

その一方で、アーティストたちから高い評価を受けているのが、ベルリン州政府独自の「即時支援2」。
ドイツ連邦制では、州の権限が大きく、特に文化政策については州に立法権があるため、州に判断が委ねられている。芸術文化支援においても、国の割合は15%弱、州や自治体が大半だという。

ベルリン副市長のクラウス・レーデラー氏。自らもバンド活動をする氏のモットーは「文化は贅沢品ではない、労働でもある」。
『連邦政府の即時支援とこのベルリンの「即時支援金2」の最もはっきりした違いは、自分の暮らしを守るために使うことが認められているところです。ベルリンの支援金からは、家賃や買い物などを払うことも可能です。連邦(国)の「即時支援」では、リースの分割払い、材料費、仕事場の家賃など、経営に関するいくつかのものにしか当てられません』

ベルリンは、ドイツの中でも最もフリーランス、特に個人のフリーランスの密度が高い街。
「その多くがアーティストですが、それだけでなく美容師やタクシー運転手、配管工でも同様です。資金繰りに大きな余裕がなく、即時援助が必要となる職業グループ。ですから、ベルリン州政府は非常に早く、この援助プログラムに合意しました」。

その支援の「即時性」にも目を見張る。申請受理から支援金の振込みまで2〜3日。なぜそんなに早いのか。理由は手続きの簡便さにある。基本は自己申告。収入の減少を証明する書類などはいっさい必要ない。申請書の該当項目にチェックを入れるだけ。ただし、虚偽の申請をした場合は、補助金詐欺として、刑罰の対象になる。後々に詳細な審査も予定している。
最終的に、約14万件の申請があり、州銀行傘下のベルリン投資銀行から13億ユーロ(約1540億円)が支払われた。(現在は、資金切れのため「即時支援金2」はストップしている)

なぜこれほど迅速で手厚いのかというと、日本などと比べると、どだい文化・芸術に対する国民の意識も事業規模も違う。
博物館、美術館、コンサートホール、劇場(特にオペラ座)、映画館、ギャラリー、クラブ、そして定期開催されるアートフェスティバルなどの規模も数もまったく違う。これらに参加するアーティストも、運営に携わる従業員も、労働として認め、支えるバックボーンが国民の側にもあるという証しだろう。ドイツでは文化や芸術が重要な産業のひとつであり、文化・芸術が社会の中で高い地位を占めているのだ。

その背景には、苦い歴史的教訓がある。
ナチスが権力を掌握したあと、新しい芸術や文化活動に「退廃芸術」とレッテルが貼られ、弾圧された。
「何百万人もの人々を苦しめた、自由のない、独裁の日々――。確かにそれは、芸術や文化の自由が、ここまで高く評価されるようになった要因の一つではあるでしょう。
物質的な制約から自由になってこそ、芸術は自由になれる。だから、私たちは芸術を支援するのです。市場に合ったもの、売ることばかり考えずにいられるように、周囲とぶつかっても、制作を続けることができるようにね。」(クラウス・レーデラー氏談)

だからこそドイツは、第二次世界大戦後、苦労して民主主義を取り戻し、芸術の自由を憲法に謳った。国家による芸術への侵害を赦さないためだ。
「金をもらうなら言うことを聞け」という考え方では本末転倒。自由が何かを制限する理由になってはいけない、との思いだ。

■メルケル首相の成功の秘訣

〇過去の苦い経験を踏まえ、しっかり反省したうえで、二度と同じ過ちは繰り返さないという確固とした信念がある。
〇危機意識が高く、やることがとにかく迅速。
〇経済への影響を視野に入れながらも、人の命を優先させるスタンスを崩さない。
〇防疫の主役は国民ひとりひとりの意識であり、結束が重要であることを効果的にアピールしている。
〇論理的思考を崩さず、専門家による客観的な分析データにもとづいた迅速な意思決定。
〇男性的な厳しさ、冷静さとともに、女性らしいやさしさ、あたたかさも忘れない。
〇自分ひとりの力ではどうにもならない。あらゆる分野の英知を結集しなければ事に対処できないことを知っている。

※メルケル首相は、記者会見において数字を用いて現状をわかりやすく説明し、あたたかい言葉で国民を励まして多くの支持を得ている。

※彼女を高く評価する専門家曰く。「メルケルはすべての結果には原因があることや、論理学的な思考法を知っている。だから、すばやく理に叶った決断ができる」

※メルケル首相は、自分の知識のない分野に関してはとことん謙虚になり、国内の公衆衛生の研究機関に早い段階から意見と協力を求めていた。現在は国内の大学の薬学部と連携し、コロナウイルス・タスクフォースチームを作る動きもあるという。

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