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語るように歌う

助川久美子「シンギング・ソウル」”Singing Soul” by Kumiko Sukegawa
2023/07/04 @那須高福寺

曖昧な記憶で恐縮だが、かつてある演出家がこんなことを言っていたと思う。
「歌は語れ、セリフは歌え」
歌手は歌を歌うのでなく、語るものである。役者はセリフを語るのでなく、歌うものである、というわけだ。このようにして初めて、人を感動させられる、ということだろう。

私も、シンガーソングライターである助川久美子のプロデューサーとして、何度となくこの言葉を本人に投げかけてきた。
しかし、「語るように歌う」というのは、そう簡単にできることではない。
たとえば、日本の歌手で言うなら、玉置浩二という人は、それができる人だと思う。
私は常々、助川久美子に「女性版・玉置浩二」を目指してもらいたいと思ってきた。

今回、7月4日・5日のライブにおいて、助川はひとつのチャレンジをした。これは、今年の彼女のチャレンジ課題でもあるようで、自分のテーマソングである「シンギング・ソウル」という曲を歌うことだ。自分のテーマソングなのだから、ライブの度に歌ってもいいはずだが、彼女は長い間、この曲を人前で歌うことに葛藤を抱き、むしろ歌うことを避けてきた。
理由は様々あるようだが、ひとつには詞の内容が、人の死、環境破壊、戦争といったネガティブなものを直接的に想起させる、というのがあるようだ。
しかし、ウクライナ戦争などが起きている今、歌わないわけにはいかなくなった、という事情が働いたのだろう。
そこで、彼女の内面に「発想の転換」が起きたようだ。
「私は、この曲を人のために歌うのではない。自分自身への約束として歌うのだ」
この発想の転換は、彼女の歌い方に劇的な変化をもたらした。
声を張らずに抑制をきかせ、なるべく淡々と、それでいて「秘めたる決意」のようなものを込めて・・・そう、まさに「語るように歌う」を実践し始めたのだ。しかも、玉置浩二の真似ではないやり方で・・・。

”Singing Soul”
music, vocal, guitar by Kumiko Sukegawa
words by Anthony K.


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