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この呼吸不全、どうしたらいいですか?【Antaa QA】

臨床現場では「この治療方針で大丈夫かな?」と、不安になることがありますよね。医局のラウンジで同僚や先輩にちょっと意見を聞いてみると、思いもよらない答えを聞けるものです。このような「ちょっと聞いてみる」をオンラインでおこなえるのが、Antaa QAです。

今回は、呼吸不全についてのAntaa QAを紹介します。急性呼吸不全は個別性が高く、治りづらいため、悩みながら診療することもしばしばです。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行により急性呼吸不全を診療する医師は増加しています。あなたの疑問もAntaa QAで解決できるかもしれません。

感染症以外の病態に鑑別を広げ、抗菌薬の追加は待ってもいいかも

最初の症例は、70歳の急性肺炎に対し、広域抗菌薬(メロペネム、アジスロマイシンなど)を1週間投与しても改善せず、バンコマイシンの追加を検討しているというもの。総合診療科の先生から、診断と治療の方針についての質問です。供覧した画像検査では、気管支透瞭像をともなう濃い浸潤影が目立ちます。

すぐに呼吸器内科の医師などからの意見が寄せられ、細菌性肺炎だけでなく、器質化肺炎や悪性腫瘍といった鑑別診断があがりました。腫瘍マーカー、肺線維化マーカーの測定、喀痰細胞診が提案されています。浸潤性粘液産生性腺癌が鑑別診断のピットフォールとなるという意見は、呼吸器内科の医師ならではの視点です。

一方で、やはり市中肺炎が考えやすいという回答もあります。レジオネラ肺炎を治療ターゲットから外さないほうがよい、バンコマイシンの標的であるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)による市中肺炎は疫学的に稀である、という見解です。この見解は質問者がすでにおこなっている治療を肯定するものでした。

治療方針が正解でも、一筋縄に改善しない場合、不安になって治療薬を追加したくなるのが主治医の性です。自分の方針と同意見の医師がいるだけで「このまま薬が効いてくるまで待とう」と思えます。自分が選択した治療方針が正しくても、そうでなくても、第三者による視点は役立ちます。

その人工呼吸器トラブル、リバーストリガーという名前です

次の症例は70歳代のCOVID-19肺炎に対して、人工呼吸器と深い鎮静度で管理していたところ、呼吸器と非同調を起こしたというもの。呼吸器と非同調した時の対応方法に関する質問です。質問には呼吸器のグラフィックが添付されており、強制換気の吸気フェーズがニ峰性になっています。

非同調の原因はリバーストリガーで、解決策は鎮静度を浅めて自発呼吸で換気させることという回答でこの質問は解決しています。リバーストリガーとは呼吸器からの強制送気が、横隔膜の収縮を起こすという機序です。同調性を高めようと、鎮静度を深めたくなるのですが、逆効果になることもあり管理の難易度は高めです。

さらに肺保護を重視する時相であれば、深い鎮静に加えて筋弛緩を考慮、という提案もありました。同じ疾患でも、経過に合わせて治療方針を細かく判断する必要があります。なかなか教科書だけでは勉強できない部分ですが、Antaa QAならリアルタイムにアドバイスをもらうことが可能です。

呼吸器との非同調について勉強できる教材は多数あり、Antaa Slideにも【人工呼吸管理】心を燃やせ!全集中の呼吸!呼吸器非同調のまとめがあります。しかし、自分が直面しているトラブルと、参考書の記載をうまくリンクさせられないのが問題です。専門家の解説を少しでも聞くと、勉強の糸口になるので有用ですね。

悩んでいるのは自分だけじゃないとわかるだけでも心強い

最後の症例は、70歳の間質性肺炎(IP)の急性増悪が疑われている方です。呼吸ECMO(体外式膜型人工肺)を用いて治療が奏功したものの、約1ヶ月後に呼吸不全が再燃してしまいました。ステロイドパルスをはじめとした集学的治療にもかかわらず、呼吸不全の状態が10日続いています。診断は正しいか?追加治療の余地は?緩和的治療も検討されうるか?という救急科の先生からの相談です。

私も集中治療医として、IPの治療に難渋した経験から、質問者の先生の気持ちがよくわかります。じわじわと呼吸状態が悪化する中で、このままでいいのだろうか?と自問自答したものです。逆に侵襲的な治療を進めることが、結果的に患者のQOLを下げるのではないかと心配にもなります。

呼吸器内科の先生たちによる「本当にIPなのか最後まで答えは出ない」「病型特定はここまで状態が悪くなると評価できないことの方が多い」という回答が印象的です。質問者は、わからないのは自分だけではない、とわかって安心したことでしょう。また「ステロイド反応性の乏しいIPは厳しい」「IPの急性増悪の緩和導入タイミングは難しい」という臨床の難しさを、経験豊富な先生の口から聞けて勇気づけられます。

画面の向こうには応援してくれる人たちがいる

今回はAntaa QAを通じて、以下の3点を得られた事例を紹介しました。

・知識豊富な専門家が鑑別診断や治療方針の客観的なアドバイスをくれる
・参考書に書いてあることと、実臨床を結びつけるような提言をしてくれる
・自分の置かれている状況は、経験豊富な先生でも困難さを感じる状況であると知れる

難しい病態に直面した時に、助けてくれたのは教科書や論文ではなく何気ない先輩のひと言だったという経験はないでしょうか。周囲に相談できる人がいなくても、Antaa QAには話を聞いてくれる専門家がいます。電子カルテの前で頭を抱えているあなた、ぜひAntaa QAを活用してみましょう。

執筆:ゆっくり救急医