Antaa Slideは、医師同士の“Giveの精神”でつながるスライド共有プラットフォーム
アンター株式会社が2016年より運営する「Antaa Slide」は、医師がアップロードした勉強会やセミナーのスライド資料を閲覧できるスライド共有サービスです。
なかには累計130万PVを超える人気スライドも誕生し、若手医師や医学生を中心に多くの方にご利用いただいています。
Antaaでは、今後もより多くの方にAntaa Slideをご活用いただくために、代表の中山に当サービスに込めた思いを、サービス立ち上げのエピソードとともにインタビューしました。
「Antaa Slide」とはどのようなプラットフォームか?
──まず最初の質問ですが、Antaa Slideはどのようなシーンで活用いただいているサービスでしょうか?
中山 Antaa Slideは、医師・医学生のためのスライド共有サービスです。勉強会やセミナーで使用したスライドをアップロードしていただき、ユーザーはそれを閲覧することができます。
実際の使用シーンとしては、例えば若手のドクターが夜間の診療時に「この疾患を診たことがない、どうしよう」というときに検索して解説スライドを探していただいたり、日々の診療で「他の病院ではどのように治療しているのかな」「他の先生方はこの薬をどう処方されているのだろう」といった疑問を感じたときに閲覧いただいたりといった形ですね。
ある分野について本腰を入れて勉強する前に、まずは概要を掴むためにAntaa Slideでそのテーマのスライド眺める、そんな使い方もしていただいているようです。
実は私自身も、実際の診療現場でAntaa Slideに助けてもらったことがあります。
中山 俊(なかやま しゅん)
アンター株式会社 代表取締役/翠明会山王病院 整形外科医師
鹿児島県出身。鹿児島大学医学部を卒業後、東京医療センターで初期研修。2016年にアンター株式会社を創業。「医療をつなぎ、いのちをつなぐ」をミッションに医師同士がつながる場やサービスをSNSを用いて運営。Antaaサービスの登録医師数は23,000人を突破。趣味は、温泉・サウナ。
Twitter:@shun_nakayama_
私は今も整形外科医として勤務していますが、先日救急当番をしていた際に、顎関節脱臼の患者さんが搬送されてくると連絡が入りました。
顎関節脱臼の整復は経験が乏しく「そういえばAntaa Slideに顎のはめ方のコンテンツがあったような……」 と思って“顎関節脱臼”と調べると、安藤 裕貴先生のスライドを見つけました。
そのスライドで、手袋を準備したほうが良いということや、親指をガーゼで包んだ方が良いといったことを手早く学び、無事に整復することができました。
──「スライドで学ぶ」という行為は、医師の方々にとってどういう良さがあるのでしょうか?
中山 一つは「医師が使い慣れているツールである」という点です。病院内では勉強会やレクチャーがたくさんあり、その際に必ず使われるのがPowerPointやKeynoteで作成したスライド資料です。そのため、医師はスライドから情報を得ることに慣れています。
そしてもう一つは、「情報収集が瞬時にできる」という点です。よく資料作成のコツとして“ワンスライド・ワンメッセージ”ということが言われますが、スライドには図やイラストともに、作成者が伝えたい情報がコンパクトにまとまっています。
もちろん成書でしっかり学ぶことも大事ですが、臨床現場では一つの疑問を瞬時に解決したい場面が多々あります。その点、ビジュアルを通して手早く学べるスライドは最適なのです。
研修病院を離れて気づいた「学ぶ機会」の重要性
──“Antaa”と聞くと医師同士の質問解決プラットフォーム「Antaa QA」を想起する方が多いかと思います。Antaa Slideはどういう経緯で生まれたサービスなのでしょうか?
中山 今でこそAntaa QAがAntaaの代名詞的なサービスになっていますが、実は一番最初に作ったサービスはAntaa Slideです。
僕の初期研修病院は、初期研修医が一学年30人で二学年合わせると60人もいるような大きな病院でした。研修医が各診療科を回ると先輩医師がたくさんいて、レクチャーや勉強会も毎日のように行われていました。その診療科にいるだけで、「先輩から教えてもらう機会が多い」「そこにいるだけで学ぶことができる」そんな恵まれた環境でした。
でも研修が終わって色々な病院で働く機会を得て、そうした環境は特別だと気づいたのです。
──学習機会に変化があったということですね。その頃、実際にはどのように勉強していたのですか?
中山 自分が担当する患者さんの課題について、医学書やWEBで調べて勉強することが中心でした。でもそれだと、自分が出会っていない疾患の知識は得られません。
そこで改めて「自分がかつて働いていた環境にはどんな価値があったのだろう?」と考えた時に、「全国の病院のレクチャーや勉強会で使用されたスライドをみんなで共有することができれば、どんな環境にいても知識をアップデートできるのではないか」という着想を得たのです。
そうしてAntaa Slideの構想を考え始めたのが2015年末頃です。実際に今のサービスの形が出来上がったのが、2016年の7, 8月ぐらいでした。
自ら勉強会を企画しても、スライドは集まらなかった…
中山 サービスが立ち上がった次はスライドを集め始めたのですが、ここからが大変でした。色々な勉強会でレクチャーをされてる先生方に連絡を取り、「スライドを投稿してくださいませんか?」とお願いしたのですが、ことごとく断られてしまいました。
そんな中、当時成田赤十字病院にいらした古矢 裕樹先生(現・千葉大学医学部附属病院)にスライドを共有していただけることになって、初めてAntaa Slideにスライドが掲載されました。ただそんな簡単には集まらず自分たちで作ったスライドを投稿していたのですが、それだと整形外科の資料しか集まらず......。
そこで次は、「自分たちで勉強会を企画するのはどうだろうか」と考えました。勉強会を企画して色々な先生方にレクチャーをお願いし、その講演スライドを共有してください、とお願いしました。でも、これもうまくいきませんでした。「あくまで対面の勉強会用に作ったスライドなので、WEBで色々な人に見られるのは怖いから…」「セミナーに足を運んでくださった参加者の方に失礼だから…」と。
人気コンテンツに牽引されたサービス認知度
──そうした状況が好転したきっかけは何だったのでしょうか?
中山 2016年から2017年にかけてずっと週一で勉強会を開催して、その度に「先生のスライドをAntaa Slideでシェアしていただけませんか?」とお願いしていたのですが、スライドを実際にご提供いただけるのは、月に1本とかのペースでした。
「どうしたらスライドの投稿がもっと増えるんだろう…」そう思っていた矢先に、神戸市立医療センター中央市民病院の黒田 浩一先生(@hrkz1985)や、湘南鎌倉総合病院の山本 大介先生(@Daisuke43761742)がスライドを投稿してくださるようになりました。 黒田先生や山本先生のスライドが多くの先生にシェアされて、そのおかげでAntaa Slideの認知が一気に広がりました。
※編集注:黒田先生、山本先生のスライドは以下よりご覧いただけます(Antaa Slideへのログインが必要です)
・黒田浩一先生のスライド一覧
・山本大介先生のスライド一覧
黒田先生からは、「Antaa Slideに投稿したことがきっかけで出版社から声がかかり、書籍の出版が決まった」ということを後で伺いました。その他の先生方からも「Antaa Slideがきっかけで、医学生が病院見学に来ました」といった話も聞いて、その思わぬ効果に驚いたこともありました。
こうして少しずつスライドの数が増えていくと同時に、Antaa Slideの認知度も上がっていきました。
多くの人に必要とされるスライドの共通点とは?
──今のお話に出てきた山本先生の「頭部MRIプレゼン」のスライドは、先日累計130万PVを達成しました。なぜ一枚のスライドがこれほどまでに多くの方に読まれているのだと思いますか?
中山 スライドが分かりやすいというのは勿論あると思いますが、前提として、僕には「医師が知りたい情報は、実はそんなに変化していないのではないか」という思いがあります。今回の山本先生のスライドはまさに、医師であれば誰もが知りたい内容が、驚くほど分りやすくまとめられた普遍的なコンテンツです。
Antaa Slideによってこのようなコンテンツが多くの先生方に届き、臨床現場で役立ていただけていることを本当に嬉しく思っています。
──そうしたスライドを作るためのコツは何かあるのでしょうか?
中山 見やすいスライドの共通点を探ってみると、高いデザイン性というよりも「スライドを見やすくするための一定のルールが守られている」ということが大事な気がします。フォントのサイズとか、見やすい配色とかですね。そしてスライドを構造化し、「誰に届けたいか?」ということをしっかり考え、それに対してうまく解説の粒度を調節するのも大事だと思います。
伝える相手は誰なのか。相手によって必要な情報や伝え方は変わってきます。そうした要素が合致しているスライドは、より多くの方にご覧いただいているなと感じます。
医師同士の“Giveの精神”が、知識をつなぐ
──スライドを投稿される先生方のモチベーションはどのようなものなのでしょうか?
中山 やはり「自分の知識が誰かの役に立って欲しい」というGiveの精神がそこにはあると感じます。そうした先生方の「伝えたい」という気持ちが、Antaa Slideに投稿するという行動に繋がっているのではないでしょうか。
病院見学や出版につながったという話もご紹介しましたが、Antaa Slideへのスライド投稿をきっかけに「勉強会を開催するので、このスライドのテーマで講演して欲しい」という声がかかるようになった先生もいらっしゃいます。
──今後、Antaa Slideはどのようなサービスを目指していますか?
中山 「これってどうやって勉強したらいいんだろう....そうだ、Antaa Slideを見てみよう」というように、医学の知識を得る際にまずAntaa Slideを想起する、そんな存在になりたいです。
例えば本を買うとき、これまでは「書店に行こう」というのが第一想起だったものが、今や多くの方が「Amazonで検索しよう」と思いますよね。そんな感じで、今は研修医の方が勉強を始める際は「Google検索しよう」「書籍を読もう」が第一想起かと思いますが、その手前に想起されるサービスにしたいです。
さらに、そうしてAntaa Slideで学んだ先生方が、次の世代の先生や他科の先生に知識や経験を伝える循環をつくっていきたいと思います。Antaa Slideの可能性というのはまだまだ広がっていると思うんです。医療の知識はもっとつなぐことができる。それによって医療はもっと良くなるはず。そう思っています。
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最後までお読みいただき、ありがとうございます。
Antaa Slideでは、医師を対象としたスライド投稿キャンペーン「Antaa Slideコンテスト」を開催しています。
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皆さまからご投稿をお待ちしています!