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【座談会】皮膚科専門医にキャリアについてきいてみました 後編

司会:皮膚科医座談会のキャリア後編になります。前編では、皮膚科と医局の選択や専門医についてうかがいました。後編も引き続きよろしくお願いします。

学位は医局でキャリアを積むなら必要で、取得により臨床力は上がる

司会:大学院(学位)に入った方がいいと思いますか?

大学病院の皮膚科医エフ先生(以下、大学のエフ私の医局では、希望者が学位を取ります。大学院に進む理由は、大学でキャリアを積む場合(講師以上になるには学位が必要)と研究に興味がある場合ですね。辛いことも多々ありますが、皮膚や免疫、対象疾患について深く学べますし、結果が出れば単純に嬉しいです。時期は、金銭面やキャリアアップを考えるなら専門医取得前がベターですが、いつ始めても遅すぎるということはありません。研究仲間が増えれば嬉しいです。

クリニックの皮膚科医肉球先生(以下、クリニックの肉球):弊学では、入局と同時に社会人大学院へ進む人が多かったですね。私は学位を取ってよかったと感じています。文献を読む時の解像度が深まりましたし、私のようにクリニックにいても兼任講師として医局に籍を置くことができます。特にクリニックで1人医師体制だと、大学のカンファがいかに得難いものだったか痛感しました。今でも医局のカンファがZoomになったのを機に参加することも多いです。

市中病院の皮膚科医夏目悠先生(以下、市中の夏目):私の医局は慢性的な人手不足なので学位が無くても、年功序列で大学の助教や関連病院の部長に場所によっては、なれます。なので、個人的には学位の必要性は感じていません。ですが、学位をもつ先生方とは、論文の解釈や疾患の考察に差が出ると感じることがあり「研究をすると臨床に深みが出る」というのが、今になってわかりますね。

司会:大学院のデメリットはありますか?

大学のエフ:私の場合、手術をあまりしないので手術スキルへの影響はありませんでした。大学院では入院患者は診ず、外来回数は減るので一時的に臨床力が落ちるかもしれません。一方で、大学院では指導医が多く、難しい症例を深く診るため、市中にずっといるよりは最終的な臨床力は上がると思います。あと、やはり収入は半分近く減るので、家族がいるとハードルが上がりますよね。

司会:学位は大学でキャリアを積む場合は必要で、臨床力もむしろ長期的には向上するんですね。

専門医取得後のキャリアは、その人のライフプランによってさまざま

司会:専門医取得後のキャリアは人によって異なりますが、大学で働く人はどのような人でしょうか?

大学のエフ:大学でしか経験できないことをしたい人ではないでしょうか。研究や教育、出世をしたい人、また、私の医局では悪性腫瘍に関わる場合も大学にいる必要があります。各医局では得意分野があり、基幹病院研修中に関わる機会があると思います。その時、たまたま小さな成功体験があると、大学に残りたくなるかもしれません。

司会:市中病院で働く人はどのような人でしょうか?

市中の夏目:私は仕事内容と待遇面で市中病院を希望しています。もともとアトピー治療をしたかったのもあり、市中病院でcommon diseaseにいかにアプローチし、重症化させないかという診療をしたいと考えています。ただ、最近はプライマリな事は開業医へ任せるように推奨されており、あまり希望の診療はできていません。でも、市中病院も、大学ほど高度な治療はしませんが、その分、よく診る入院症例や他科との連携などが活発でやりがいはありますね。たとえば、フットケアでは多くの診療科と協力して診療しています。あと、待遇面も大学はベースの給料が低いので、市中病院を選択しています。

司会:最近は美容クリニックで働く人も多いですよね

クリニックの肉球:10数年前は美容=脱落者・金儲け主義のイメージで私自身も毛嫌いしていました。しかし、外来で高齢のご婦人が鬱っぽくなり、話を聞いたら「白内障術後にシミだらけの自分に気づき落ち込んでしまった」ようでした。そこで、皮膚のことなのに病気しか診れないようではダメだとハッとして、美容の勉強を始めたんです。それがまた面白くって!!専門医取得後で、次の課題を探していたのもあり、一気にのめり込みました。私は実は、医局で忌憚なく話ができる環境や、教育もすごく好きで、医員のつながりも良好だったので、医局を離れるのは迷いました。とはいえ、医局人事は最悪で、いつまでもそれに怯えて暮らすのは嫌だと思い、医局に義理を果たしたタイミングで、兼任講師として医局と繋がりを残して常勤を辞めました。

司会:大学でしたいことがある人は大学に残り、common diseaseを主に診たい場合は市中病院もあり、そして、医局を辞める場合は美容という選択肢もあるんですね。

美容の勉強は確かな先生のもとで、開業のタイミングに正解はない

司会:よく質問されることはありますか?

クリニックの肉球:美容はどのように学べばいいかをよく聞かれます。1番は医局OBなどのクリニックで見学やバイトをすることですね。人脈がない人は、学会のハンズオンセミナーもおすすめです。私もその懇親会で演者の先生に感銘を受けたことを伝えたら、某大学の嘱託医として週1で勉強できるようになりました。ただ、無給どころか寄付金が必要でしたが……。ちなみに、院長がどんな先生かも知らない美容バイトは間違った知識や変な癖がつくことがあるのでお勧めしません。私は、美容バイトは院長の経歴などを見て、勤務したいと思えるところを探すようにしていました。

司会:美容もきちんとした人に指導してもらうのが一番ということですね。

クリニックの肉球:開業するなら何年目がよいかもよく聞かれます。それこそ開業の時期は正解がなく、その人のタイミングですよね。家庭があれば子供の出生や保活(保育園へ入れるための活動)、進学などもあるでしょうし、体力やローンなどを考えると早いうちにとなりますよね。一般的に開業は、30代半ば〜40代が多いですが、50代で開業されて盛業の先生もいらっしゃいます。他にも、一度雇われ院長をして経験値を上げてからの開業や、多店舗展開クリニックの分院長という選択肢もありますね。

大学のエフ:お世話になった教授が「開業するなら皮膚科10年目がよく、医師10年目だと足りない」と仰っていました。修行期間が短い先生からの紹介患者が目につく印象があって「よくわからないからとりあえず送ってしまえ」「紹介しづらいから適当にあしらっとけ」という状況は避けてほしいですよね。一方で、総合病院での検査、治療の必要な患者をある程度選んで送っていただけると、やりがいがありますし、患者さんのためにもなると思います。

市中の夏目:経営面では早い方がよく、実力をつけてからとなると専門医取得後にさらに研鑽を積んでとなりますがこの2点は矛盾しますよね。ただ、開業医と大学病院など大きい病院では扱う疾患の層は異なると思います。もちろん、開業医から送られてきた症例が大学病院でどのような経過をたどるかは、経験しておく必要があります。可能であれば、医局にいながら美容も含めて研鑽できると、医局に在籍する期間も延びていいかもしれませんね。

司会:開業するタイミングに正解はなく、その人によるんですね。

どれも大変参考になるお話ばかりでした。座談会はここまでとなります。皆様ありがとうございました。
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執筆:shun@形成外科