ぶいすぽ/CR炎上とカトマス同接24万から見るスマーフ・ブースティング問題

2021年9月29日未明、YoutubeやTwitchで活動している配信者の加藤純一さん(うんこちゃん)が同時視聴者数24万人を記録するという出来事がありました。
配信内容は『Apex Legends』でマスターランクに到達するというもので、ランクがソフトリセットされる直前でマスターに到達し、Twitterを始めネット上で大きな話題となっています。

ただ、この配信内容について一部からは「マナーに反している」「ゲームのルール違反では?」という声も上がっています。
また前日にはVtuber事務所『ぶいすぽ』に所属している配信者の八雲べにさんが、『VALORANT』というゲームでプロゲーミングチーム『Crazy Raccoon(以下CR)』所属のプロからブースティングを受けていたことが発覚、炎上するといった事件があり、「なぜ加藤純一は許されて八雲べには炎上したのか?」という疑問を持つ人も多いように見受けられました。
e-Sportsシーンやゲーム配信を見る上で、今後重要なトピックになると思い、個人的に調べたことをまとめましたので、ご一読いただけると幸いです。

スマーフ・ブースティングとは?

ゲーム用語について疎い方向けに、今回の騒動のキーワードとなっている"スマーフ"と"ブースティング"という単語について簡単に説明いたします。「知ってるわボケ!」と言う方は飛ばしてください。

スマーフ・スマーフィングとは、オンライン対戦ゲームなどで高度なスキルを持つプレイヤーが、初心者などの自分よりも下手なプレイヤーと対戦するために、新しいサブアカウントを作成してゲームをプレイする行為を指します。
引用元:オンライン対戦ゲームでサブアカを作り初心者狩りなどを行う「スマーフィング」はなぜ生まれたのか? - GIGAZINE
ブースティングとは:コンピューターのチート行為の一で、技量のあるプレーヤーに対価を払ってゲームを代行してもらうこと
引用元:Weblio辞書

ブースティングについては、広義の意味では「スマーフやチート行為を行っているプレイヤーと一緒にプレイすることでランクを上げる」という意味で使われる事もあり、今回の騒動では後者を指す言葉として用いられています。
サブアカウントを作成して意図的に格下とマッチングする行為が"スマーフ"、そのスマーフをしているプレイヤーと一緒にプレイし、ランクを上げていく行為が"ブースティング"という認識で読み勧めていただければと思います。

『Apex』『VALORANT』におけるスマーフ・ブースティングの扱い

結論から言うと「ランクを上げる目的のスマーフ・ブースティングは、ゲーム内で明確には禁止されていないもののグレーゾーンであるため、極力控えるべき」という扱いです。
色々調べていたらめちゃくちゃ長い説明になったため、本項の結論について納得できた方は読み飛ばして大丈夫です。

各ゲームについて細かく説明すると更に長くなるため詳細は省きますが、どちらも"ファーストパーソンシューティング(FPS)"というジャンルに属するゲームとなっており、それぞれ異なるアメリカの企業が開発・運営しております。

まずスマーフについてですが、VALORANTを運営するRiot Games社は「スマーフは推奨しない」というスタンスを取っており、規約として厳密に禁止している訳ではないものの、プレイヤーからの意見等に対し公式が何度か発言をしていました。
その中では「初心者狩りを目的としている悪質なスマーフ行為については厳しい処置を取ることもある」と言及していますが、その一方で「ランクの離れた友人と一緒にランク戦をするためのスマーフ行為については、システム側で緩和措置を取っていくことを検討している」と発言しています。

スマーフ対策のカギは、単にペナルティーを与えるのではなく、悪意のないプレイヤーがスマーフをしなくても済むように、VALORANTのプレイ環境を整えることだと考えています。まずは、こうした悪意のないスマーフに対する解決策や緩和措置を講じたうえで、残りの「悪意のあるプレイヤー」に対し、VALORANTからの追放も視野に入れた厳しい処分を科していくつもりです。
引用元:ASK VALORANT - 5月7日

そのため、VALORANTとしては「システムが整い次第明確に禁止していくが、現在はプレイヤー一人一人の良識に頼る」という状態であると考えられます。

また、Apexを開発しているRespawn社としても同じような見解をTwitter上にて発信しており、今年5月にゲーム内の通報システムにて『スマーフィング』が通報理由として選択できるようになった際、海外プレイヤーからの問い合わせに対し下記の通り発言していました。

@realEuriece : この項目について、これは私が「すべてのキャラクターでソロマスターを目指すこと」も禁止されますか?

@RSPN_Hideout : いいえ。これは、システムを悪用し、低ランク帯のロビーで初心者狩りを行うために新しいアカウントを作成するプレイヤーを対象としています。そのようなスキル向上のためのスマーフはBANにはなりません

@RSPN_Hideout : 私がお願いするのは、サブアカウントを乱用しないことです。低ランク帯のプレイヤーにとってスマーフ行為は非常に不公平なため、意図的に低ランク帯に居座るアカウントについてはBANします
引用元:Twitter (一部意訳)

結論、どちらのゲームも「初心者狩りを目的とした悪質なスマーフ行為」については禁止としていますが、今回の騒動で問題となっているランクを上げるためのスマーフについてはグレーゾーンという姿勢であると見受けられました。

次にブースティングについてですが、こちらについてはゲームシステム上でマッチングの公平性を保つために、それぞれ"ランク制限"というシステムが用いられています。
例えばVALORANTでは、低い順にアイアン・ブロンズ・シルバー・ゴールド・プラチナ・ダイアモンド・イモータル・レディアントという8段階にランクが分かれていますが、フレンド同士ではランクが2つ以上離れているとランク戦にエントリーできない仕様となっています。(アイアン〜シルバー間を除く)
Apexでも同様のシステムが用いられており、仲間内でプレイする際はランクが近い者同士でないとプレイできないシステムが組まれているのですが、そこで鍵になってくるのが前述のスマーフとの組み合わせです。

たとえば、VALORANTでプラチナのプレイヤーが仲間内でランクに行こうとする場合、最大でもダイアモンドのプレイヤーとしかチームが組めませんが、レディアント・イモータルのプレイヤーでもランク設定されていないサブアカウントを用いてチームを組むことで、エントリーが可能になってしまいます。
先ほどの"マッチングの公平性"という観点では、明らかにアウトな行為かと思われますが、現時点ではApex/VALORANTともに処罰の対象とはなっておらず、特にVALORANTでは前述の通りシステム側で緩和措置を行う予定が組まれているとのことです。

そのため、これらのスマーフ・ブースティングについては"ゲーム上明確に禁止とされてはいないものの、極力控えるべき行為である"というグレーゾーンであるというのが、両ゲームにおける公式見解となると思われます。
※補足ですが、狭義の意味であるブースティング(プレイ自体を代行し、ランクを不正に上げる行為)は禁止されています

ぶいすぽ/CR炎上の経緯

さて、前説が長くなってしまいましたが、そろそろ本記事のメイントピックについて触れていきたいと思います。
『VALORANT』でランク戦をプレイしていた一般プレイヤーが、Twitterにてとある試合のリザルトをアップロードしたのが事の発端でした。
相手チームには八雲べにさんやCRおじじさん(CRオーナー)の名前があり、プラチナ~イモータルのプレイヤーが混ざる中で、トップスコアを出しているのが相手チームのアンランク(ランク設定のないアカウント)だったことで、スマーフ・ブースティングが疑われた背景です。

その後、八雲べにさんの所属事務所であるぶいすぽの調査により、一緒にプレイしていたプレイヤーがCR所属のプロ選手だったことが判明し、ぶいすぽ及びCRよりお詫びのコメントが発表されたという経緯になります。


なお、本件についてぶいすぽ側は既にRiot Games社へ謝罪をしており、厳重注意のみで大会参加禁止などのペナルティは発生していないとの発表がされています。
前述の「ランクの離れた友人と一緒にランク戦をするためのスマーフ行為」に該当するとの判断で"厳重注意のみ"となったのかと思われますが、一般プレイヤーからしてみたらマッチングするはずのないプロ選手に当たり、理不尽にランクが下がってしまうことになるため、やはり控えるべき行為であったことには変わりありません。

カトマス企画の方はどうだったのか

さて、その一方で配信者の加藤純一さんはTwitchにて「ブロンズからマスターを目指す」といった趣旨の企画(通称カトマス企画)を実施しており、その加藤純一さんの挑戦を手伝うべく多くの配信者がサポートメンバーとして登場しました。
特に話題となったのが、北米のプロゲーミングチーム『Alpine Esports』のプロ選手として活躍しているEurieceさんがサポートとして登場したことでした。彼の登場により加藤純一さんはギリギリでマスター帯に到達。同時接続者数24万人を達成するなど大きな盛り上がりを見せました。

ただ、ここで問題となるのがそのEurieceさんとのプレイ。彼もプロ選手であり、ゲーム内のランクはプレデター(Apex最高ランク)となっていますが、今回Eurieceさんはサブアカウントを用いてチームを組んでいました。他にも、プレデター到達経験のあるVtuberの渋谷ハルさんもサブアカウントで参加していたり、先ほどの八雲べにさんの一件と同様に、スマーフ・ブースティングを行っていたと言う状況に類似しています。
※9/30追記 筆者の誤認識で、プレデターでもダイアモンドとインキューできるとのことで一部記事を訂正しております。大変失礼いたしました。

その部分について疑問や不満を持っている方が配信中・配信後で少なからず見受けられましたが、それらを上回る勢いで話題となり、企画が無事達成された際は加藤純一さんを称賛する声が多く上がったことで多種多様の意見が飛び交う事態となっております。

炎上案件と企画成功、なにが違ったのか

ここまで書いてきた通り、八雲べにさんの炎上と加藤純一さんの企画において「プロやランクの高い人物のスマーフ行為によってブースティングを受けていた」という部分は共通しています。

ただ、カトマス企画において渋谷ハルさん・Eurieceさんは、プレデターと共にランク参加が可能となるダイアモンド帯に上がってからサポートとして登場しており、仮にプレデターランクのアカウントを使用しても、マッチングレートに差は出るもののシステム上問題はないことになります。

憶測の域を出ませんが、下記の要素も結果の違いに表れているのではないでしょうか

・配信内外における、ゲームプレイの透明性
前述のEurieceさん・澁谷ハルさんがサポートとして参加したのはダイアモンドからマスターへ上がるための試合のみで、そのダイアモンドに上がるまでの間はソロプレイやほかの配信者や視聴者を募集しプレイを行なっておりました。視聴者がサブアカウントでプレイしている可能性も否めませんが、明確にサブアカウントを使用しているプレイヤーとのプレイ時間が配信全体の中で割合が少なかったため、視聴者からはそこまで問題視されなかった可能性が考えられます。
逆に八雲べにさんの炎上に関しては、配信外のプライベートなプレイがTwitter越しで発覚したことにより「日常的に行っているのではないか?」という疑問が持たれ、炎上に繋がった認識です。

・両配信者における、ゲームに対するスタンスの違い
加藤純一さんは、ゲームの腕前ではなく体験を楽しむことを第一としており、「下手なプレイ(沼)」も魅力の一つとなっています。今回のApexにおいても、過去一度もマスターに到達したことないプレイヤーが、約3日というタイムリミットで最低ランクからマスターを目指すというインパクトが先行していました。
ただ、八雲べにさんはゲームの実力をネームバリューとしています。その中で本人が意図せずとも、その実力を示すランクをグレー行為で上げる事態となってしまったことが、糾弾される要因となってしまったのではないでしょうか。

ApexとVALORANTというゲーム性の違い
大まかのジャンルでいえばどちらもFPSではあるのですが、内容はかなり異なっており、負けた場合すぐにゲームが終了するApexと違い、VALORANTは最低13ラウンドを戦う必要があるため一試合でかかるストレスが異なっています。
また、1ゲームの参加者数もApexは3人1チームが計20チーム(合計60人)である事に対し、VALORANTは5人1チームの2チーム対戦(合計10人)であることから一人一人のプレイスキルの影響度が色濃く試合に反映されることもあり、各ゲームコミュニティーにおいてスマーフ・ブースティングに対する嫌悪感の違いが、今回の騒動に影響していると思われます。

結局スマーフ・ブースティングはNGなの?

さて、ようやく本記事の結論ですが、結局のところスマーフ・ブースティングは公式として「推奨される行為ではないが、規約等で明確に禁止している物ではない」というグレーゾーンの行為であり、今回話題となった両名も、本来であれば控えるべきものとなっています。
その上で、本記事執筆中にぶいすぽより発信された謝罪文の中にも「該当の行為は規約違反ではなく、モラル違反」とRiot Games社の声明が記載されており、必要以上に重い処罰が取られるべき内容ではないことも確かです。

またカトマス企画においては、本人の実力を偽る目的ではなく「3日間でブロンズからマスターへ行けるか」という挑戦内容であったため、必要以上に加藤純一さんが責められるような問題ではないかと思います。
一説では「Apexでは配信者が企画としてスマーフ・ブースティングすることは許されている」というような意見も見受けられましたが、情報元である公式発表が確認できなかったため、本記事では取り扱わないこととします。

今回の騒動は、スマーフ・ブースティングにおける各プレイヤーの認識が定まっていなかったことで、必要以上の混乱が起き、大きな話題となっている雰囲気が見受けられました。今回の件を機に「スマーフ・ブースティングは控えるべきマナー違反行為」ということが浸透し、同様の事件が今後e-Sportsシーンや配信界隈において発生しないことが一番ではないでしょうか。

また、本件の当事者についても、推奨される行為ではないものの規約で厳密に禁止されているわけでもなく、ぶいすぽの一件に関してはRiot Games社より厳重注意以上の罰則を与えない旨が展開されていますので、必要以上に各人を攻撃するのは、スマーフ・ブースティングと遜色のない「モラル違反」であると筆者は考えます。

あとがき

ここまで長い間お付き合い頂きありがとうございました。
本記事を書き始めた際は、「ネット上に憶測の発言が多すぎるから、この際白黒ハッキリさせようじゃないか」と意気込んで執筆開始しましたが、いざ調べてみると公式のスタンスがあまりにも不明瞭で、想像以上に複雑な話題であったことに気が付かされました。
日本語化されている公式記事や攻略サイトに記載されている情報を元に調査を行いましたが、両ゲームとも運営会社がアメリカだったため英語のソースまで精査することができませんでした。

結論の部分に記載されている「Apexが配信者のスマーフを許容している」といった件についても、スマーフの説明で引用したEurieceさんとHideoutさんのやり取りが独り歩きした物かと考えていますが、もし公式ソースが確認できた方はコメント・リプライでご教授頂けると助かります。
他にも、記事内で事実と異なる点がありましたら、容赦なくご指摘頂けますと幸いです。

改めて、最後まで読んでいただきありがとうございました。e-Sportsシーンが好きな筆者としても、この騒動が今後の反面教師として生かされること、そして本件が必要以上に各プレイヤーへのアンチ行為に発展しないことを祈ります。

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