「起業はリスクか?」 : キャリアにおける本当のリスクについて農業ユニコーンの生みの親、ディープテックスタートアップの連続起業家から学ぶ
お久しぶりです。ANRIでインターンしている博士(@nashi_budo_)です。
最近は個人のnoteで発信していたこともあり、ご無沙汰しております。
さてさて、今回はキャリアにおける真のリスクについて書きます。
スタートアップの起業に限らず自分のキャリアを決める上での軸が分からなくなることはしばしばあると思います。今回の記事がそんな悩みのある方の一助となれば幸いです。
上記の質問に対して、Indigo Agricultureという農業ユニコーンの創設者 David PerryがHarvard Innovation Labsで行った講演 "Making an Impact through Entrepreneurship" で自身の起業経験を振り返りながら答えます。
日本ではディープテックスタートアップのシリアルアントレプレナー(連続起業家)はインターネット領域と比較して極めて少ないです。PerryはIndigo Ag創業以前に数社起業しています。後で詳しく書きますが、上場・売却経験がある敏腕シリアルアントレプレナーです。そんな彼の起業ヒストリーの中で得た学びを赤裸々に語ってくれている貴重な講演です。下の動画を見ていただければ、このnoteは読んでいただかなくて大丈夫です。
先に結論から知りたい方向けに彼の起業家人生で得た学びをまとめておきます。詳細についてはそれぞれの章で説明していきます。
農業ユニコーンIndigo Agとは?
Indigo Agの事業や技術はそれだけで1本noteが書けるくらいに興味深いのですが、ここでは我慢して簡単なサマリーに留めておきます。ディープテックスタートアップと言えど、特に注目すべきはその秀逸なビジネスモデルです。
David Perryの起業家人生
ケミカルエンジニアリングの学士をUniv. of Tulsaで取得後、EXXON Corporationで5年間働く。技術を応用した事業を始めたいと思い、会計や経営を学びにHarvard Business Schoolに行きMBAを取得する。
【起業アイディア探し】
起業アイディア探しを始め、自分に会ってくれる人には誰にでも会って話を聞きに行き、真っ白な用紙に思いついたビジネスプランを3・4個用意する。
【1回目の起業:Chemdex】
1997年、科学者がライフサイエンス製品を従来のカタログ注文で調達することに多くの時間を費やしていると感じ、ライフサイエンス業界に関連する製品のB2Bオンラインマーケットプレイス企業Chemdexを創業した。創業2年後には、ドットコムバブルに乗り上場するも、バブル崩壊とともに一気に企業価値が下落し、400人ほど解雇し創業4年後には会社を売り払った。カリブ海に籠り、起業アイディア探しを再び同じやり方で行う。
【1回目の起業から得た学び】
ネットコムバブルに上手く乗れてしまったこともあり、良くも悪くも"戦略"のみで運良く上場までたどり着いてしまった。投資家は戦略が好きだし、みんな戦略の部分を聞きたがるけど、実行こそが戦略に意味を持たせるのである。1社目では具体的にどうやって優秀な人材人を雇うのか、組織全体の進む方向を揃えるのかなどを理解していなかった。また、Chemdaxの事業に心酔できるほどの魅力を感じていなかったために、毎日会社で寝起きするよほど一生懸命になれなかった。次の起業では本当に自分にとって意味深いことをやる必要があると感じた。
【2回目の起業:Anacor Pharmaceuticals】
2002年、感染症や炎症性疾患を治療するための新規低分子治療薬の開発に注力するバイオ医薬品企業を創業し、12年間CEOを勤めた。自分の興味の分野のライフサイエンス、2016年、同社はPfizerに54億ドルで買収された。その後、再び起業アイディア探しにネパール、チリなどに9ヶ月籠る。
【2回目の起業から得た学び】
結果的にPfizerに買収されてエグジットできたが、このときPerryはすでに40代でキャリアの1/4はAnacor Pharmaceuticalsに捧げたことに気づいた。有名になったり、お金持ちになるにはもっとずっと簡単な方法がいくらでもある。選択肢がある中であえて起業を選ぶならば、事業に本当に強い思い入れがないといけない。
2社の起業の経験を踏まえて、自分にとって最も意義深い大きな課題に取り組め、達成したときのインパクトが社会的にも大きい事業Indigo Agを創業。
起業家人生で学んだ教訓
1. 起業によって選択肢を絞ってはならない
起業する上で、Perryは2つのルールを守っていました。
- できるだけ多くのビジネスプランをストックしておく
- 起業が失敗したときのバックアッププランや仕事を見つけておく
起業するからと言って、一つの事業に命を賭ける必要はないのです。常にバックアッププランを持ち、リスク分散を心がけていました。
2. 小さいアイディアからスタートしてはならない
身近なもの(仕事・趣味・興味)と新しいコンセプトが結びついたときにアイディアは生まれるとPerryは言います。起業家は簡単そうだからという理由で小さい課題から取り組みがちです。しかしながら、スタートアップにおいては、課題の大小に関係なく大変です。
逆に大きなアイディアに取り組むと、資本、パートナー、社員を引きつけやすいというメリットがあります。そのため、どうせスタートアップはどんな問題に取り組んでも大変なんだから、大きくて意義のある問題に取り組もうとPerryは言います。
3. 真のリスクは「正しいキャリアパスを踏み外すこと」ではない
HBS時代の同級生600人のうち、5人ほどしか起業ませんでした。起業するというと、「そんなリスク取って大丈夫?」とよく聞かれたそうです。「でも、人の資本をリスクに晒しているだけ(エクイティー調達だから)し笑、別に暮らしていけるから自分がリスクを取っているという認識はなかった」。キャリアの捉え方が彼らとは根本的に異なっていることに気づきました。"正解"とされる大学に入り、"正解"とされるキャリアを選び、"正しい"キャリアパスを歩んできた人にとっては、そのパスから外れることはリスクに思えます。しかし、"正しい"と思い込んでいるキャリアパスって本当にリスク低いのか?とPerryは疑問を投げかけます。
4. 人生をかけた目標は4つの要素の最小公倍数
「自分が好きなこと×世界が必要としているもの×自分が得意なこと×利益が得られること」が人生における目標になるとPerryは言います。しかしながら、この目標を見つけるのに彼でさえも40年かかってしまったと言い、見つけることは決して容易いことではないことが伺えます。
5. リスクのないキャリアに必要なのはただ一つの行動のみ
ここまでの教訓を読んで、そんな目標が見つからない場合はどうすればいいのだろうと疑問に思った読者も多いと思います。Perry自身起業する度に自分の目標を考え続けています。自分が得意なことが分からない、自分が好きなことが分からない。そんな人は多いのではないでしょうか?
もし詳しい分野がないのであれば、その分野に飛び込み、凄い速度で学べば良い。成長できる環境に身を置き、自分の熱を注げることをやり続ければ、キャリアは必ず前進する。キャリアにおける本当のリスクとは、何かに挑戦した結果失敗することではなく、無価値なこと・自分にとって深い意義を見出せないことに長時間を費やしてしまうことだとPerryは強調します。自分の興味に向けて突き進み、ひたすら学び成長し続けていれば、リスクはないのです。
感想
シリアルアントレプレナーと言うと、距離が遠い存在と感じてしまいますが、Perryの飾らない話方に親近感が湧きました。常に目標を模索し、成長し続けようとする姿勢に感銘を受けました。その一方で、生存者バイアスでは?という斜に構えてしまう自分もいます。Perry自身が成功したから起業はリスクではないと主張しているのではないか?たしかにそうかもしれないです。しかし、私個人としては、どうせ時間をかけるなら、自分にとって価値があることをしたいと思います。それが社会的にインパクトがあれば尚更嬉しいです。そして、挑戦することが許されている限り斜に構えず若い心を持っていたいです。
量的な評価方法の中を生きていると感じることがあります。定量的な評価方法に向かって局所最適化しながらキャリアを選んだとき、要領良く生きることができ、"コスパ"は良いのかもしれませんが、コスパばかり追求した先に何があるのでしょうか?
量的な成功、質的な個性については個人のnoteで少し深ぼっているので、もしご興味あれば読んでみてください。
盛り上がる気候変動ビジネス
ビジネスモデルの章でもお話した通り、Indigo Agは気候変動への影響を相殺する方法を求めている会社や個人に炭素クレジットを販売するビジネスを行っています。ANRIでは、気候変動対策に関わるビジネスに大変注目しております。
詳しくは以下のnoteや代表佐俣アンリの「THE21 | 雑誌 | PHP研究所」2021年7月号のインタビューをぜひご覧ください。
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以下にANRIで働いた記録をまとめたnoteを貼っておきます。
参考文献
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