研究者がスタートアップの起業を考えたときにまずやるべきこと

 ANRI 元島です。前回・前々回までは研究開発型スタートアップが補助金を獲得するための心構えとTipsについて書きました。

補助金シリーズは一旦お休みです。
今回からは何回かにわけて研究者の起業にあたって気を付けてほしいことをまとめていきます。特に起業前にフォーカスしていきます。

研究開発型スタートアップではご相談にいらした時点でのっぴきならない状態になり、支援する術もなく涙を飲むということがあります。最近は情報の量も増え、そのようなケースは減少傾向ではありますが、せっかくの開発されたシーズがそのようなことにならないように、という願いを込めて気を付けるべきことを書き記しておきます。おそらく研究者以外にもお役に立つのではないかと思います。どこかの誰かが助かれば嬉しいなと願っております。

1.後戻りできない意思決定を意識する

まず一番最初に抑えておきたいことは、意思決定には後戻りできるTwo-way doorと後戻りできないOne-way doorがあるということです。そして、研究開発型スタートアップの起業までにはいきなり大きな2つの後戻りできない意思決定があります。

①資本政策
知財戦略

資本は全スタートアップ共通のOne-way doorですが、知財は特に研究開発型スタートアップでは重要で、かつ、起業前にイベントが起こることが多いので注意が必要です。この2つを誤るとスタートから取り返しがつかないことになってしまったり、両手両足を縛って登山をするような苦行になります。

なお、One-way door、Two-way doorはAmazonのジェフ・ベゾス氏によるものです。

Some decisions are consequential and irreversible or nearly irreversible – one-way doors – and these decisions must be made methodically, carefully, slowly, with great deliberation and consultation. If you walk through and don’t like what you see on the other side, you can’t get back to where you were before. We can call these Type 1 decisions. But most decisions aren’t like that – they are changeable, reversible – they’re two-way doors. If you’ve made a suboptimal Type 2 decision, you don’t have to live with the consequences for that long. You can reopen the door and go back through. Type 2 decisions can and should be made quickly by high judgment individuals or small groups.

とても汎用性の高いよいフレームワークだと思います。経営とは要は意思決定の連続ですので、よい意思決定をするための手法のひとつとして意識してみてください。

2.新しい研究分野としての起業

意思決定には2つの種類があることが認識できたら、それぞれに対して、適切な対応を取ります。

One-way door:許される時間の中でできるだけ情報を集め、十分な協議と検討をしたうえで一定のリスクを理解し、飲み込んで意思決定を行う。
Two-way door:素早く実験し、失敗から学び、修正してまた素早く実験する。

つまり、One-way doorにはリサーチが、Two-way doorには手を動かすことが求められます。さて、これって何かに似てないでしょうか?そう、本業の研究ですね。研究費の獲得とその中での実験の関係性にとても近いです。というわけで、起業にあたっては全く新しい分野の研究を始める、くらいの気持ちでリサーチと実験に取り組んでください

時折、ビジネスのことは全くわからないので実務は全部任せたい、とおっしゃる先生や(言葉にはしなくても)ビジネスなんて私の技術があれば簡単、と思ってらっしゃる先生がいらっしゃいますが、どちらも間違いです。他分野から来た共同研究者あるいは学生が自分の分野に対して同じことを言ったらどう思うでしょうか。
研究開発に集中するにしても、実用化を進めるにあたってはビジネスを一定の理解をしている必要がありますし、全く触れたことがない人が簡単にできることにこれだけ多くの人がエネルギーを注いでいるわけがありません。一方で、学生でも起業する場合もあるわけで、企業で働いた経験がないからわからない、というものではありません。侮らず、かといって過度に劣等感を持たず、きちんと学びながら手を動かしていきましょう。

というわけで、改めて繰り返しますが、あなたがやるべきことは、新しい分野の研究を始めるように、本気で起業について取り組むことです。

3.「正しく」リサーチを行う

まず重要なのは「正しく」リサーチを行うことです。新しい分野の研究だと思えば、正解がないが、先達はいる分野のリサーチという、まさに専門性が発揮される部分だと思いますので、釈迦に説法ではありますが、気を付けてほしいのは大きく3つ。

①インセンティブの違う人の話を鵜呑みにしすぎない
②経験者と専門家の意見を聞く
③質のいい情報にできるだけ量を意識して触れる

 ①インセンティブの違う人の話を鵜呑みにしすぎない
最近は起業支援も活発となり、URAやTLOなどの大学の中の方々、私たちのようなVC、大学ファンドや産学連携アドバイザーのような方々など様々な支援者の方々が存在します。これらの方々は基本的にみなさんの味方です。しかしながら、微妙にインセンティブが違います。色々な人が色々なことを言うと思いますが、100%あなたの目的と一致する人はいませんので、そのことを念頭においてアドバイスを受け取ることが重要です。多角的な意見を得る、消化して自分で考えるということを意識しましょう。残念ながら誰も責任はとってくれません。
 研究計画にアドバイスは受けても、言われたことをそのままに受け入れることはないですよね。新しい分野に「自分」が挑戦する意識で起業しましょう。

※当然僕らVCの言うことについても同じです。VCは会社の成長という観点では比較的インセンティブが揃いやすいですが、それでもインセンティブがずれうる部分は存在します。

②経験者と専門家の意見を聞く
その点で、インセンティブがそろいやすい方々がいます。経験者、つまり研究開発型スタートアップを起業した起業家や研究者と弁護士、弁理士などの外部専門家です。
特にメンターとなる先輩起業家が確保できると今後もずっと心理的に強く支えてもらえるので、元々の知り合いや人伝手、あるいは素晴らしいなと思っているスタータップの創業者など、たくさんアポを取って会ってみるのをお勧めします。この時、分野の違いはあまり気にしなくてよいです。場合によっては研究開発型スタートアップでなくてもよいと思います。もちろん分野特有の悩みもありますが、9割方の起業の悩みは共通している、というのが体感です。
また、良い外部専門家も職業上、クライアントのインセンティブに強くよりそっていただけます。特に、URAやTLOなどの大学内部の方々を強く信頼される研究者が多いですが、(もちろん先方に悪意はないことが多いですが)必ずしも士業レベルの専門家ではないですし、大学の思惑が優先されることもありうるので、基本特許の出願など重要な意思決定の際にはセカンドオピニオンを取られることをお勧めします。
 良い専門家を探すのは大変ですが、メンターやVCなどに紹介を依頼するとよいと思います。また、最近はTwitterやnoteで積極的に発信されている専門家の方々もいらっしゃいますので、大いに参考にしましょう。

③質のいい情報にできるだけ量を意識して触れる
質のいい情報を意識するのは当然ですが、ここでのポイントは「量」です。少しずつ角度の違う情報を沢山見ることで、量が質に転化します。これも研究でも体感いただけているのではないかと思います。とにかく関連情報をたくさん読んで、できればアウトプットするのがおすすめです。
最初期に対応しなければならないOne-way doorである資本と知財についてのおすすめは次回以降で解説しつつご紹介しますので、今回は一般的なスタートアップに関するおすすめコンテンツを載せておきます。

①Twitter
 超ベタですが、起業家もVCも研究者もなぜかやたらTwitterにいるので気になった人はフォローしておきましょう。便利なリストを作ってくれてる人もいるのでそちらを活用するのもおすすめ。
 例:VC,ベンチャーキャピタリストリスト
   ※公開リストですが、他の方のリストなので後ほど消すかもです
馬田さんのスライド群
 業界入ってからずっとお世話になってます。とりあえず全部読んでから考えるが吉です。「はじめてのスタートアップ」シリーズは絶対読みましょう。私の好きなスライドは「解像度を高める」です。
関連してFoundX Reviewもおすすめ。
③起業家、VCのブログ、Podcast等
 ぜひ直接のヒアリングを沢山行ってほしいですが、熱心に発信してくださっている方もいらっしゃいます。ありがたく参考にしましょう。日本語の有名なやつだけいくつかピックアップしておきます。聞ける人は海外のPodcastもおすすめです(Master of Scaleとか)。
・10X 矢本さん (ブログPodcast
・五常  慎さん (note
・DCM 原さん (note
・Coral Capital (ブログ
私の一番好きな記事は「10Xなプロダクトを創る」です。
④イベントログなど
 ピッチイベントや対談イベントなどもスタートアップを体感するために良いと思います。
・IVS (動画ログミー
・ICC (記事
⑤書籍
 名著と呼ばれる本は基本全部おすすめです。本屋でちら見して興味湧いたものからとかでもよいのでお時間のある時に。
Zero to One
爆速成長マネジメント
イシューからはじめよ
HIGH OUTPUT MANAGEMENT
未来を実装する
STARTUP 優れた起業家は何を考え、どう行動したか
興味のある企業の伝記系もおすすめです。上がる。VC初期の思い出補正もあり、私が一番好きな体験談本は「未来を切り拓くための5ステップ」です。SCHAFTの話。

次回予告・あとがき

今回上げた起業最初期の2つのOne-way door、資本と知財について実例や参考資料などを交えて少し深堀りしていきます(予定)。ほとんどのOne-way doorがそうであるように、明確な失敗はあっても正解は存在しないので、事例や歴史を参考に、悔いのない意思決定ができるとよいですね。
最近、他のメンバーのコンテンツがハードコアなので大事な情報は参考資料に頼りつつ、もう少しゆるふわ系noteを目指していこうと思います。

ベンチャーキャピタルANRIは、「未来を創ろう、圧倒的な未来を」というビジョンのもと、インターネット領域をはじめ、ディープテックやライフサイエンスなど幅広いテクノロジー領域の大学発スタートアップにシード期から投資を行っております。
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