投資先紹介:組織幹細胞研究を元に毛髪・皮膚疾患治療を目指すイーダーム社について
ANRI榊原和洋です。先日、イーダーム社のシードラウンドにおいてANRIより出資をさせていただきました。プレスリリースの内容は以下よりご覧ください。
ここでは、イーダーム社がまず取り組む脱毛症領域のこと、イーダーム社のことを紹介させていただければと思います。
※科学的厳密性よりも読みやすさを重視しております。詳しい内容を確認されたい方は記事中の文献をご参照ください。
どのような会社か?
イーダーム社は東京大学西村栄美教授の研究を元に設立され、脱毛症をはじめとした毛髪疾患・皮膚疾患の治療を目指す企業です。まずはじめに着手するのは女性型脱毛症。ヘアケア業界の盛り上がりは、日々生活をする中でも広告を通じて容易に感じることができます。特にAGA脱毛症については様々なプレーヤーがユニークなCMを流しており、名前は誰しもがきいたことがあるのではないでしょうか。
このような流れの中でも、女性型脱毛症については解決策が不足している領域といえます(男性型脱毛症にも未解決のペインは存在します)。ペインが大きい領域に対して、科学的エビデンスに用いた安全で効果のあるプロダクトを開発し、まずは脱毛症に悩む方を救いたい、エンパワーしたいとイーダーム社は考えています。
Scientific founderの西村先生は米国科学アカデミーのメンバーであり、組織幹細胞研究について、Nature、Scienceなどトップジャーナルからの論文発表を多くされている研究者。CEOの安藤信裕さんはCHANELの元日本研究所長であり、医薬部外品の上市をさせた経験者。今後新たなメンバーを巻き込みながら、上記の目標達成を目指せると期待しています。
「たかが髪の毛」ではないと思う
「髪の毛ってどんな影響力があるのだろう?」という問いをサイエンスから離れて考えてみると、人の印象・アイデンティティに与える大きさを感じさせられます。就職活動時の学生で髪型マニュアルを参考にしながら「就活生らしく」振る舞う方は今でも多いように感じますし、逆にアーティストは自由に自分の創造性を表現するツールとしても使っているように思います。七三分けのBob Marleyや長髪のPharrell Williamsは想像することすら難しい。
髪の毛が薄くなることは老いの象徴とも感じるもので恐怖の対象にもなれば、若くして髪の毛が薄いことは学校でのからかいの対象にもなります(実体験)。健常な毛髪の状況にあっても、定期的に美容室に通い、髪型を自分らしく整えるわけで、それに応えるべく全国に理美容室は38万件ほどあり、そこで働く美容師・理容師の方は75万人を超えます(厚労省令和3年度衛生行政報告例を参照)。髪の毛は人の生死に直接的に関与しないにもかかわらず、あまりにも人に大きな影響を与えていると感じます。だからこそ、髪の毛を失うという恐怖から救うイノベーションは大したことであると思うわけです。
毛髪関連の市場は大きいが未解決なペインも大きい
矢野経済研究所のヘアケアマーケティング総鑑を参照すると、国内において薄毛に悩む成人人口は1,000~1,300万人。発毛育毛剤の国内市場は1,000億円を超えており、皆さんご存じミノキシジル配合のリアップシリーズが約150億円、ECで大きく売上を伸ばしているニューモ育毛剤が約120億円の年間売上額を記録しています。医家向けだとフィナステリド(MSD→オルガノン)、デュタステリド(GSK)がそれぞれ63億円、23億円。悩みを抱える国内の人数、市場規模どちらを見てもインパクトのあるものだと感じます。
どの製品が推奨されているのか、日本皮膚科学会のガイドラインを参照すると医家向けの医薬品である、フィナステリド、デュタステリドは男性型脱毛症には強く推奨されているものの、女性型脱毛症に対しては禁忌とされています。結果的に女性型脱毛症に医師のお墨付きを得て使えるのはミノキシジル外用のみに限定され、まだまだ選択肢が少ないと言えます。
現状、ガイドライン上では推奨されていない、かつら増毛市場は国内において800億円以上であり、多くの方が根本的解決ではないものの見た目を解決する判断をされていることが推察されます。男性型脱毛症についても現場の医師にヒアリングをすると、より効果の高い製品を求めていることを感じます。
既存製品と異なり、毛包幹細胞にアプローチするイーダーム社
ドラッグストアに並ぶ製品に含有されていることでよく知られているのが、ミノキシジルでしょう。ミノキシジルは元々ファイザー社によって高血圧の薬として開発されました。その血管拡張作用による血行促進および髪の成長因子の増殖によって毛乳頭細胞を活性化し、発毛を促すといわれております。
男性型脱毛症(AGA)の場合、原因となるのはデヒドロテストステロン(DHT)。男性ホルモンの代表格テストステロンが5αリダクターゼによって還元されたものになります。医薬品であるフィナステリド、デュタステリドについては5αリダクターゼの働きを阻害してDHTを作らせないようにすることで、AGAを防ぐという作用機序を有します。これらの医薬品は作用機序からもわかるようにAGAに限定されます。
一方、イーダームは既存製品のアプローチとは異なり、毛包・毛包幹細胞に注目したアプローチをしております。毛包(Hair follicle, HF)は髪の毛を育てる小器官であり、毛包幹細胞(Hair follicle stem cell, HFSC)はそこに存在する幹細胞です。ヘアサイクル中に老化に伴うDNAダメージが入るとHFSCは上皮側に移行し、HFが縮退し、結果脱毛が促されます(下図参照)。この過程において17型コラーゲン(COL17A1)という物質がHFSCのメンテナンスに非常に重要であることを西村先生チームは発表しています(Matsumura et al. 2016, Liu et al. 2019)。ということは、COL17A1の分解を防ぎ、HFSCを安定化させられれば、HFが縮退することも脱毛することも防げるわけです。これがイーダーム社のアプローチです。髪の毛が生えるメカニズムに寄り添った、男女問わず使える脱毛症治療薬を開発している、といえるのではないかと思います。そして、ガイドラインにおいて、男女ともに推奨度A、かつBest in classの製品を作る可能性が大いにあると期待しています。
トップレベルのサイエンスを製品にできる期待感
私が感じているイーダーム社の魅力を端的に述べると「トップレベルのサイエンスを製品にできる期待感」になります。基にしているサイエンスが評価されていることは冒頭で述べた通り、トップジャーナルへの多数採択や先生の実績から明らかです。そのうえで、実用化先に明確なペインが存在し、大きな市場が存在し、医薬品、医薬部外品、化粧品と様々な出口戦略を立てることが可能という魅力があります。
優れたサイエンスから優れたプロダクトが生まれる保証はありません。ですが、それを実現させて世の中の人に幸せを届けたいし、バイオベンチャーの価値を製品を通して感じてもらいたいという、私個人の想いがあります。イーダーム社の事業は、技術・事業領域の特徴からそれが叶えやすいとも感じていますし、創業メンバーから「とにかくニーズのあるところに製品を届ける、ものづくりをしたい」という思想を強く感じることができました。そのために安藤さんは「今が第六期青春期」と言いながら、新たなチャレンジを厭わず楽しんでいらっしゃいます。
現メンバーに加え、研究開発以外に強みを持ったメンバーを集めながら、目標に向かい邁進できればと思います。ここまで読んでくださった皆様「イーダーム」の名前を是非覚えていてください。また、イーダーム社にご興味ある方いらっしゃいましたらご連絡ください。よろしくお願いいたします。
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