【1,000億円!】NEDO ディープテック・スタートアップ支援基金資料レビュー

ANRI元島です。というわけでNEDO ディープテック・スタートアップ支援基金(DTSU)が先月末に公募開始され、説明会も終了しました。締め切りは5月25日正午ですので、GWに書き上げるぞーという方も多いと思います。ざざっと資料のポイントを掻い摘んで解説します。長いですので、GWのお供にどぞ。

1.概要

まず、公募ページはこちら。

説明会資料はこちら。

https://www.nedo.go.jp/content/100959647.pdf

ざっくり事前の予想通りといった感じです。大要は下記ページ参照のこと。

NEOD DTSU説明会資料より

ポイントを以下に列挙します。

  • 1,000億円の基金で最大6年間30億円の大型支援が可能な制度

  • 資金調達ラウンドに合わせて助成を行う制度

  • フェーズの切り替えは柔軟な設計、同フェーズの継続も可

  • 事業会社連携や海外技術実証で上限引き上げあり

  • 期間中は開発品の販売不可、有償サンプルの配賦は可

  • 終了後、利益が出た場合には収益納付が発生

2.制度のポイント解説

1,000億円の基金で最大30億円の大型支援が可能な制度

 1件当たりの平均累計が10億円としても100件、年間20件の採択、5年目は100件が同時に事業展開の可能性もあり、という事務局泣かせな事業になってます。NEDOとしてもいたずらに金額を大きくすることはないですが、正当に大きな金額を使って成長できる事業は歓迎されるはずです。しっかり踏み込む計画を作って相談にいきましょう。その観点で後述の提案資料内の中期計画も以前より重要になってくると思われます。

資金調達ラウンドに合わせて助成を行う制度

 STS、PCAも認定VCによる出資が要件となっておりましたが、今回は年4回の実施、対象期間も公募締切の3か月前(※初回のみ6か月前)から採択決定の1か月後までとなり、資金調達ラウンドの一環としての位置づけが明確になりました。

2023年度の日程をよく見るとわかるのですが、採択まで大体2.5か月くらいを想定しているので、出資の対象期間はおよそ6.5か月になります。従って、極端な話、どこかの回の期限ぎりぎりを出資期日に設定すると最大3回応募できることになります。正直、着金時期をコントロールする必要のある3回応募を狙うのは資本政策としてもあまり本質的ではありませんが、2回応募可能なタイミングはわりと自然に狙えるので、DTSUに応募される企業は意識してみてもよいかもしれません。

フェーズの切り替えは柔軟な設計、同フェーズの継続も可

 従前のSTS、PCAは各事業複数回の採択は想定されていませんでしたが、DTSUにおいてはステージゲート審査を経て、同フェーズの残予算を利用することが可能となりました。補助金額が大きくなったため、1億円以上の調達でないともったいない、という事態も懸念されていましたが、少額の調達でエントリしても損にならない設計になっています。
 なお、FAQにもありますが、従前のSTS、PCAに採択されたことのある企業も再度STS、PCAに応募可能です。ただし、対象ステージであることの説明は必要となりますのでご注意ください。

事業会社連携や海外技術実証で上限引き上げあり

 事業会社連携や海外技術実証の要件で、STSの上限が3億円→5億円に、PCAの上限が5億円→10億円となります。実際のところ、DMPは売上の要件等を考えると利用できる企業がそこまで多くないので、PCAの10億円がメインコンテンツになるんだろうなって気はします。
私、準備しといた方がいいよって言いましたよね?

期間中は開発品の販売不可、有償サンプルの配賦は可

 お決まりではあるのですが、今回これが一番きつい制限になると思います。開発PJの切り出し方である程度対応+ステージゲートの切り方でうまくスピンアウト品を出して行く形はありうると思いますが、慎重にNEDOとも相談しながら販売は実施していく必要があります。量産技術開発前にある程度販売したい気がするけど、うまいことやってくれ、ということでしょう。

終了後、利益が出た場合には収益納付が発生

 STS、PCAでは助成事業成果が活用された事業の5%~10%の収益納付(助成金の確定額を上限とした返済)が規定されていましたが、料率の定めがなくなりました。より沢山返せってこともないと思うのでおそらく踏襲されると思いますが、この記事を書いていて気が付いたので、こちらは確認して追記します。助成事業完了から5年間です。30億円助成を受けたとしたら5年で30億円÷料率の利益出すよね、ってことですね。10%でも300億円。なかなか意欲的。5年間の利益計画が返済に満たないと審査上不利ってことはないと思いますが(スタートアップ育成が目的として強いため)、とはいえ突っ込まれるかもという覚悟はしておいてよいかもですね。

3.提案書作成のツボ

 結論から言うと、今回は丁寧な追加資料が出ており、なんと公式見解があります。丁寧なお仕事。下記スライドも記載される補足説明資料は必読です。

(補足説明資料)望まれる事業提案についてより

 基本的には記載の通りで、大筋はVCへのピッチと大きな違いはないと思いますが、あえて違いを挙げると、NEDOの特性ゆえ、いわゆるMOATは技術的な参入障壁についての記載を厚くすべき、という点になります。必ずしもビジネス確度と大型エグジットの可能性の示唆を同時に求められる点において、難しさはあり、VCと違って市場仮説を審査側で検討したりはしないので、しっかり描き切る必要があります。

 従来通りであれば、書面審査は技術面の詳しい審査員が、面接審査はスタートアップ全般に詳しい審査員が担当する形になります。必ずしも当該市場に詳しい審査員にあたるとは限らず、誤解を恐れず言えば、一般常識的な認識を元にしたコメントも予想されるため、インサイトを説得力もって描かないと市場を理解してもらえない恐れがあります。いわゆるマムテスト的なものを意識するとよいでしょう。

 また、上述したように、一貫支援が特徴かつNEDO的にも重要となるため、ステージゲート審査後の中期計画に言及しているのも特徴のひとつです。必ずヒットすることを求められるものではないと思いますが、具体的に考えられていることが重要で、かつ、フォローオンの意向が明確な資金の出し手を確保できると強そうです。

4.その他事項

 全く制度が変わっているため、様々違いは生じていますが、ここまで見てきた以外のポイントと思われる点をいくつか記載します。

旧STSよりは旧PCAに近い

 公募要領、申請資料ともに、STSというよりもPCAをより踏襲しているようです。既存採択企業の資料を手に入れて参照する場合などはPCA採択企業を頼るとより理解が進むと思います。相変わらず申請資料には沢山のコメントが記載されているので存分に参考にしましょう。

新しい評価項目

 評価項目もPCAを踏襲していますが、新しく「経済社会課題の解決に貢献する事業であること」が明記されています。おそらくはあらゆる事業が少なからず貢献するものとは思いますが、特にDTSU基本方針スタートアップ育成5か年計画骨太方針などを参考に政府、ひいてはNEDOの問題意識などを理解しておくことが重要です。

5.あとがき

 新規情報はないので、こちらで概要を掴んで応募すると決めたあとは、しっかり資料を読み込みましょう。なんと今回通年募集のため、公募期間にもNEDOに直接ご相談が可能となりました。これは活用しない手はないです。とはいえ、みんな同じことを考えて気にせずガンガン相談来ちゃうとパンクするので、ある程度整理して相談しましょうね。逆に全く相談なしでいくのは差がついちゃうのでお勧めできません。

 毎度の記載で大変恐縮ですが、補助金事業は国との共同事業です。大企業との共同事業提案を行うときのように、相手のことも良く調べて、お互いにメリットがあるような計画を意識して、いい補助事業を実施しましょう!味方になってもらえれば結構いいことありますよ!
 J-STARTUPの選定にも各省庁の有識者票も入るようになりましたし、近年の大きな事業はロビーイングの要素なしに事業が成り立つことも少なくなってきました。公的機関としっかり付き合うことの実利は出るようになってきてると思います。上手に活用してきましょう!


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