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冠動脈バイパス術VS血管形成術

心臓は全身に血液を送るポンプの働きをしています。休むこともありません。生まれてから死ぬまで一生涯働き続ける大事な臓器が心臓です。この心臓が機能障害を起こした状態が心不全という病態です。

過日、天皇陛下が心臓手術を受けられたことは記憶に新しいことかと思います。心臓の筋肉を養う血管を冠動脈とよびますが、大動脈の起始部から左右に2本出ています。さらに左の冠動脈は2本の枝に分かれます。これらの冠動脈が動脈硬化により狭窄して起こる病気が狭心症心筋梗塞です。これらを総称して虚血性心疾患または急性冠症候群(ACS)ともよばれれます。

狭窄したすなわち詰まりかかった冠動脈に対して行われる代表的な手術には、心臓カテーテル手術(PTCA)冠動脈バイパス手術(CABG)があります。

冠動脈バイパス手術とは、狭くなったり閉塞している冠動脈の先に別の血管をつなげ、血液がその血管を通り、これによって血流の少ない心筋部位により多くの血液を流してあげる手術です。閉塞部をバイパスすることで心筋への血流量の回復を図ります。

この別のグラフトと呼ばれる血管がバイパスです。グラフトとして、以前は大伏在静脈を使用しておりましたが耐久性に問題があり、近年では内胸動脈、橈骨動脈などの動脈を使用することが多くなりました。

術式としては人工心肺下で行う手術が一般的ですが、最近はスタビライザーという器具を用いて心臓を拍動させたまま行うオフポンプ手術も行われております。冠動脈バイパス手術の英略語はCABG(Coronary Arterial Bypass Grafting)とよばれます。

ちなみに普通保険約款の対象となる手術としては、手術番号21号大動脈・大静脈・肺動脈・冠動脈手術(開胸・開腹術を伴うもの)に該当しますね。

一方、心臓カテーテル手術では、足の付け根にある大腿動脈からカテーテルを挿入し、腹部大動脈、胸部大動脈を介して、左右いずれかの冠動脈まで尖端を運び、冠動脈形成術を行う血管内手術です。この経皮的冠動脈形成術の英語略語がPTCA(percutaneous transluminal catheter angioplasty)です。冠動脈形成を行うために、カテーテル尖端のバルーンを膨らませて冠動脈の血管内腔を拡張します。その際に、カテーテル先端から冠動脈の遠位部に向かって血栓溶解剤を投与することもあります。冠動脈を閉塞している血栓を溶かすことが目的です。最後に、再狭窄を予防するために金属でできたメッシュ状のステントを冠動脈内に留置します。このステント表面にも血栓溶解剤が塗ってあり、時間経過とともに冠動脈内に薬剤が流出するようになっています。これをDES(drug elucidating stent)と呼びます。

これらの手術後は、冠動脈の再狭窄や再閉塞が起こらないように、予防的に抗凝固薬や抗血小板薬の投与をして経過観察を続けます。また数年に1回は冠動脈造影検査をして冠動脈の再狭窄がないことを確認します。

生命保険医学の成書である『Medical Selection of Life Risks』によると、PTCAとCAGBの術後生存率には差はないことが分かって来ました。それゆえ急性心筋梗塞と狭心症はより侵襲度の低いPTCAが選択されるようになっています。

冠動脈手術後における生命保険の加入は、術後2~3年経過した後に保険料割増の特別条件付きで加入できるかもしれません。その際には、左右の冠動脈のいずれが閉塞や狭窄したのかと、ステントを留置した数と部位などを詳細に告知されると良いでしょう。海外で手術された場合には、冠動脈の手術報告書が主治医診断書に添付されることがあり、とても参考になります。





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