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高次脳機能障害とは、一般に「外傷性脳損傷、脳血管障害などにより脳損傷を受け、その後遺症などとして生じた記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などの認知障害を主たる要因として、日常生活及び社会生活への適応に困難を有する病態」をいう。厚生労働省の診断基準は次のとおりである。

高次脳機能障害の診断基準

Ⅰ.主要症状等
1.脳の器質的病変の原因となる事故による受傷や疾病の発症の事実が確認されている。
2.現在、日常生活または社会生活に制約があり、その主たる原因が記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などの認知障害である。

Ⅱ.検査所見
MRI、CT、脳波などにより認知障害の原因と考えられる脳の器質的病変の存在が確認 されているか、あるいは診断書により脳の器質的病変が存在したと確認できる。

Ⅲ.除外項目
1.脳の器質的病変に基づく認知障害のうち、身体障害として認定可能である症状を有するが上記主要症状(I-2)を欠く者は除外する。
2.診断にあたり、受傷または発症以前から有する症状と検査所見は除外する。
3.先天性疾患、周産期における脳損傷、発達障害、進行性疾患を原因とする者は除外する。

Ⅳ.診断
1.Ⅰ〜Ⅲをすべて満たした場合に高次脳機能障害と診断する。
2.高次脳機能障害の診断は脳の器質的病変の原因となった外傷や疾病の
 急性期症状を脱した後において行う。
3.神経心理学的検査の所見を参考にすることができる。

ICD-10

ICD-10で高次機能障害診断基準の対象となる疾患群を見ると以下のとおりである。

F04  器質性健忘症候群,アルコールその他の精神作用物質によらないもの
F06  脳の損傷及び機能不全並びに身体疾患によるその他の精神障害
F07  脳の疾患,損傷及び機能不全による人格及び行動の障害

現在の社会保険制度では、脳血管疾患の急性期から回復期のリハビリテーションとして発症から約半年間に集中的なリハビリテーションを行う仕組みとなっている。この時期は、損傷された脳が最も変化する時期ではある。脳血管疾患では特に発症から3ヶ月~6ヶ月の自然回復が著しい。しかし高次機能障害の場合は、数年かかって改善する場合があるため、180日間では十分ではない。

高次機能障害と鑑別すべき脳の全般的障害としては、せん妄認知症があげられる。せん妄状態とは、注意散漫などの軽い意識障害、幻覚と運動不穏を伴い、落ち着かず歩き回り、大声で泣いたり怒鳴ったりする状態である。高齢者では夜間に増悪することが多い。認知症では、記憶障害の他、見当識障害も起こり、仕事や日常生活場面での判断が適切でなくなる。

高次機能障害の原因

高次機能障害を引き起こす疾患としては、次のものが挙げられる。原因疾患別にみると脳血管障害が全体の8割を占め、次いて頭部外傷が1割となっている。最も多く現れる症状は失語症(56.9%)で、次いで注意障害(29.8%)、記憶障害(26.2%)の順となっている。

頭部外傷
 硬膜外血腫、硬膜下血腫、脳挫傷、びまん性軸索損傷
脳血管障害
 脳内出血、脳梗塞、くも膜下出血、もやもや病
感染症
 脳炎、エイズ脳症
自己免疫疾患
 全身性エリテマトーデス、神経ベーチェット病
中毒症状
 アルコール中毒、一酸化炭素中毒、薬物中毒
その他
 多発性硬化症、正常圧水頭症、ビタミン欠乏症、脳腫瘍

高次脳機能障害の診断は脳の器質的病変の原因となった外傷や疾病の急性期症状を脱した後において行うのであるから、少なくとも受傷や発症後の急性期治療期間を過ぎて半年間以上経過してからの診断である。1年前後の時間が経過して病態が落ち着いてからでなければ高次脳機能障害は診断できないと考えておくべきであろう。現在の社会保険制度では、脳血管疾患の急性期から回復期のリハビリテーションとして発症から約半年間に集中的なリハビリテーションを行う仕組みとなっている。この時期は、損傷された脳が最も変化する時期ではある。脳血管疾患では特に発症から3ヶ月~6ヶ月の自然回復が著しい。しかし高次脳機能障害の場合は、数年かかって改善する場合があるため、180日間でも十分ではないだろう。






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