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沈黙の臓器と呼ばれる肝臓は、その重量はヒト成人で約1.0~1.5kgです。肝臓な主な働きには、代謝、エネルギー貯蔵、胆汁の生成、解毒などがあります。アルコールの代謝も肝細胞で行われます。酵素の作用でアルコールは、アセトアルデヒドに、次に酢酸になり、最終的には炭酸ガスと水にまで分解されます。血液の主たる蛋白質であるアルブミンの産生や血液凝固因子の産生など、ヒトにとって重要な蛋白質の合成も行います。つまり肝臓は、生体の生化学工場であり、「肝心要」の臓器と言えます。

肝硬変とは

肝硬変とは、長期間にわたる肝臓組織の障害の変化の終末像です。その原因には、慢性肝炎を始めとしてさまざまな病態があります。肝硬変では、肝臓実質細胞の減少、組織の線維化と構造変化による血流障害、門脈‐大循環シャント形成などにより、門脈圧亢進症、腹水、食道胃静脈瘤、肝性脳症などの合併症を引き起こします。また、肝硬変による慢性炎症は、原発性肝細胞癌の発生母地でもあります。つまり慢性肝炎や肝硬変から肝細胞癌が発生する。肝硬変の危険因子としては次のようなものが考えられています。

  1. 肝炎ウイルス感染(B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス)

  2. アルコールの過剰摂取(アルコール依存症)

  3. 自己免疫疾患(自己免疫性肝炎、原発性胆汁性胆管炎)

  4. 薬剤性肝障害(抗生物質、解熱鎮痛剤、抗精神病薬)

  5. 肥満、脂肪肝とNASH

B型肝炎ウイルス感染による肝硬変の診断基準

ア及びイを満たすもの
ア 血液生化学的検査や画像診断検査等の検査を患者の条件や必要性に応じ
    て行い、総合的に肝硬変と診断されたもの。
イ 下記のいずれかを認めるもの。
・HBs抗原陽性若しくは HBV DNA陽性のいずれかを認めるもの 。
・HBs抗原陰性であっても、過去に半年以上継続する HBV DNA陽性
   若しくはHBs抗原陽性のいずれかを認めたもの 。
・その他、肝硬変を引き起こすB型肝炎ウィルス感染が否定できないもの 。

C型肝炎ウイルス感染による肝硬変の診断基準

ア及び イ をみたすこと
ア 血液生化学的検査や画像診断検査等の検査を患者の条件や必要性に応
    じて行い、総合的に肝硬変と診断されたもの。
イ HCV抗体陽性 又は HCV RNA陽性のいずれか を認め るもの 。

非代償性肝硬変の診断基準

次の(1)又は(2) をみたすもの
(1) Child Pugh score にてグレード B (7 点)以上を認めるもの

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Child Pugh 分類のためのスコア

注)Child Pugh分類は、5~6点が分類A、7~9点が分類B、10~15点が分類Cとなります。

(2) 以下の いずれかの 合併症を認めるもの
腹水
利尿剤の使用等の医療行為を 常時必要とするもの。
食道・胃静脈瘤
食道・胃静脈瘤の破裂による 吐下血の現症・既往歴があるもの、 又は上部 消化管 内視鏡検査で破裂の危険性がある所見を示すもの。
肝性脳症
反復歴があり、 分岐鎖アミノ酸製剤の使用等の医療行為を常時必要とするも
の 。

原発性肝がんの診断基準

画像診断検査や病理組織診断等により、原発性肝臓がんと診断されたもの。

原発性肝がんには、肝臓の細胞ががんになる肝細胞がんと、胆汁を十二指腸に流す胆管の上皮細胞ががんになる胆管細胞がんがあります。前者の肝細胞がんが90%を占めます。肝細胞がんの約60%がC型肝炎ウイルス(HCV)の持続感染、約15%がB型肝炎ウイルス(HBV)の持続感染に起因すると試算されています。慢性B型肝炎では、炎症を起こしている肝臓とこれから進展する肝硬変が、肝細胞がんの発生母地となります。

慢性炎症は、がんの発生母地と考えられています。つまりある臓器に炎症が続いていると、その組織からがん細胞が生まれるわけです。たとえば、高齢者の慢性萎縮性胃炎からも胃がんが起こりやすいということです。胃酸過多により食道下部が焼かれてしまう逆流性食道炎では、胃食道移行部にバレット食道と呼ばれる組織変化が起こります。炎症により組織が変化したものです。これが、3cm未満のショートバレット食道(SSBE)から、3cm以上のロングバレット食道(LSBE)へと変化すると、食道がんの発生率が高くなります。

肝臓の自己免疫性疾患

自己免疫性肝疾患(autoimmune liver disease)としては、次のような疾患があります。
・自己免疫性肝炎(autoimmune hepatitis; AIH)
・原発性胆汁性胆管炎(primary biliary cholangitis; PBC)
・原発性硬化性胆管炎(primary sclerosing cholangitis; PSC)

アルコール性肝硬変

B型とC型肝炎ウイルスを原因とする肝硬変は減少傾向にあるのに対してアルコール性肝硬変は増加傾向にあります。というのも肝炎ウイルスの除菌治療が進み慢性B型肝炎と慢性C型肝炎の患者数が減少しているからです。一方アルコール性肝硬変は増加していますが、これはアルコール依存症が増えているのかもしれませんね。

特定重度疾病保障保険について

生命保険会社が販売する特定重度疾病保障保険には、肝硬変が含まれているものがあります。当該保険に加入した被保険者が、責任開始期後に肝硬変と診断されることが支払事由となっているようです。早期にこの保険金請求があった場合の支払査定には注意が必要です。というのも肝炎ウイルスによる慢性肝炎に長期間罹患して、肝臓の線維化が進行し、果たして肝硬変となるわけですから、保険加入以前から慢性肝炎やアルコール依存症の病態があったものと考えられるからです。B型慢性肝炎やアルコール依存症があれば、そもそも生命保険加入は難しいのです。

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