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第1回 IPランドスケープとは?|IPランドスケープ、パテントマップ、知財情報分析・・・

本記事のオリジナルは2017年7月17日にブログ「e-Patent Blog | 知財情報コンサルタント・野崎篤志のブログ」に投稿したものになります。

2017年4月に知財人材スキル標準(version 2.0)が発表されました。Version1.0は発表されたのは2006年だったので、実に10年ぶりの改定になります。

Version1.0の戦略機能の企画・プロデュース(1.1.1)としては、

A:企業戦略
B:事業戦略
C:生産戦略
D:販売戦略
E:知財戦略
F:研究開発戦略
G:コンテンツ開発戦略
H:標準化戦略

が定義されていましたが、知財人材スキル標準(version 2.0)になって、企画・プロデュース(1.1.1)が戦略(1.1.1)となり、その下位に位置づけられるスキルとして、

A:IPランドスケープ
B:知財ポートフォリオマネジメント
C:オープン&クローズ戦略
D:組織デザイン

の4つに修正されました。

知財情報分析・コンサルティング界隈で仕事をしているので、4月以降知人・友人やお客様から「IPランドスケープとは何?」とか「IPランドスケープって新しいの?」等、質問を受ける機会が増えました。

以下がIPランドスケープのスキル標準の本体カードの内容です。

以下について、事業部門/知的財産部門/研究開発部門と連携し、業務を行うことができる。

①ミッションおよび貢献すべき課題
事業への貢献を行うため、以下の全社的課題について貢献した。
新規事業の創出
既存事業の維持/成長
既存事業の縮小/撤退

②業務内容
以下の業務を複数回成功裡に行った。
・知財情報と市場情報を統合した自社分析、競合分析、市場分析
・企業、技術ごとの知財マップ及び市場ポジションの把握
・個別技術・特許の動向把握(例:業界に大きく影響を与えうる先端的な技術の動向把握と動向に基づいた自社の研究開発戦略に対する提言等)
・自社及び競合の状況、技術・知財のライフサイクルを勘案した特許、意匠、商標、ノウハウ管理を含めた特許戦略だけに留まらない知財ミックスパッケージの提案(例:ある製品に対する市場でのポジションの提示、及びポジションを踏まえた出願およびライセンス戦略の提示等)
・知財デューデリジェンス
・潜在顧客の探索を実施し、自社の将来的な市場ポジションを提示する。

③知識
②業務内容を実行するため、以下の知識を有している。
・ビジネス(経営学の基礎理論等を含む)とそのトレンドに関する知識
・オープン&クローズ戦略
・市場の視点からみた技術のトレンドに関する知識(IoT,AI,革新的製造技術・手法等)

④能力
②業務内容を実行するため、以下の能力を有している。
・自社の業界および関連する様々な業界の企業動向、技術動向を把握する能力
・競合等の特許出願動向や、特定技術からビジネス上のインパクトを把握する能力
・複数の技術・アイデアをパッケージ化して自社の将来戦略と整合させた上で提案する能力
・業務に有用な情報システムを適切に選択し活用することができる能力

⑤経験
新規事業を担当した経験
・M&Aに携わった経験
・経営戦略部門での経験

簡単に言えば、特許情報などの知財情報だけではなく、それ以外のマーケット情報・企業情報なども加味して、分析・解析した上で、自社事業(既存・新規両面で)に貢献するスキル、になるかと思います。

IPランドスケープというのが新しいのか?という点では、

知財分析を経営の中枢に
「IPランドスケープ」注目集まる M&A戦略に生かす

のような形で注目されること自体は良いと思いますが、ランドスケープという言葉自体はそれほどユニークな言葉ではありません。

2012年にランドンIPに転職した際に、欧米ではパテントマップ(patent map または patent mapping)という言葉はほとんど使わず、パテントランドスケープ(patent landscape)と読んでいました。


例えばGoogleトレンドで「patent landscape」と「IP landscape」の検索ボリュームを比較してみると下記のようになります。

またWIPOはPLRsというPatent Landscape Reportsという、日本の特許出願動向調査報告に似たようなレポーティングを2011年から行っています。

日本語でいえば、Patent Landscapeといえば、特許情報分析や知財情報分析、またはパテントマップ、特許マップというような意味合いになります。

ただ、既に特許情報分析と言いながら特許情報だけで分析できると主張する方もいないと思いますので、「特許」情報分析や「知財」情報分析と言いながらも、実際のところは「特許+特許以外の」情報分析だったり、「知財+知財以外の」情報分析だったわけです(もちろん、特許情報・知財情報が主であり、特許・知財以外の情報が従ではありますが)。

そのため、最初にIPランドスケープという言葉を見たときに、特に新しさを感じたわけでもないですし、特許情報分析とか知財情報分析という言い方を少し洗練させたらこうなるのかな、という印象でした。

そもそも、Landscapeは辞書での意味が示すように

(田園風景など一目で見渡せる)景色,風景,見晴らし,眺望.

出所:http://ejje.weblio.jp/content/landscape

俯瞰を含意していますので、知財人材スキル標準(version 2.0)でIPランドスケープというスキルを新設したのは言葉の持つ意味とマッチしていると思います。

経営戦略の三位一体が唱えられて早15年。

経営戦略の三位一体を実現するためには知財情報分析、知財人材スキル標準(version 2.0)でいうところのIPランドスケープというスキルが必要となります。

この15年でデータベース・ツールなどのシステム面でのインフラもかなり整いましたし(15年前に比べると分析ツールはかなり充実してきています。その一例は「知財情報の有効活用のための効果的な分析方法に関する調査研究」を参照)。また知的財産協会(JIPA)のマネジメント委員会や情報検索委員会や3i研究会、パテントマップ研究会、PAT-LIST研究会を始めとした委員会や研究会活動、知的財産アナリストなどの資格制度など人材育成面でのインフラもかなり整ってきました。

新設されたIPランドスケープというスキル自体は、日本の企業でも(全部とまでは言えなくても一部)既に実施している企業もあると感じていますし、欧米企業の方が進んでいるという感じも受けません。

あえて言えば、知財人材以外の方(=知財部門以外の方、特にマネージャー以上の層)の知財に対する理解が欧米企業・金融機関やVCの方が圧倒的に進んでいる、知財を企業・事業戦略の一手段としてしっかりと認識している、と感じます。

欧米企業はこういう分析手法を使っている、こういう分析ツールで良い結果が出ているというのは1つのベンチマークとして必要かもしれませんが、その前になぜ知財情報分析や、ここでいうIPランドスケープがその組織で根付いているのか?、活用されているのか?というところにこそ注目すべきかと思います。

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