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【特許から見る】年度末関連特許の出願トレンド

「知財情報を組織の力に🄬」をモットーに活動している知財情報コンサルタントの野崎です。

3月ですね、年度末ですね

2002年にNGBに入社して以来、前期末(9月末)と年度末(3月末)は案件が集中して非常に忙しくなる時期です。

2017年にイーパテントを設立して独立してからも、その状況はあまり変わらず、今年度もあと2つの分析報告書を完成させるところまで来ました。

現実逃避?いや、休憩を兼ねて「年度末」に関する特許にはどのようなものがあるのか分析してみました。

と、その前に年度末は特許出願も集中して忙しいのか?という質問をいただいたので、調べてみました。

図:年・月別日本特許・実用新案件数推移

やはり3月出願は多いですね。それ以外ですと、調査・分析と同様に前期末の9月、あと年末の12月(会計年度が1-12月の企業もありますので)に出願のピークが見られます。

さて、それでは年度末関連特許について見ていきましょう。検索条件はいたってシンプルで、全文で「年度末」です。

図:J-PlatPatの検索画面

2002年1月1日出願以降で限定すると419件の特許がヒットしました。

まずは件数推移。

図:年度末関連特許・実用新案の件数推移

2000年代前半の出願が多かったのですが、その後減少し、2010年代半ばから再び増加傾向です。

2000年代前半の出願は、後ほど見るようにビジネスモデル特許ブームに関係しています。

次に出願人・権利者ランキングです。

図:年度末関連特許・実用新案の出願人・権利者ランキング

トップは個人(様々な個人発明家の出願を個人としてまとめています)、日立製作所、富士通、中国電力と続きます。

ちなみにJ-PlatPatでは最先公報(基本的には公開)優先で検索結果一覧表示を行っていますので、公開ばかりになっています(登録は無審査登録の実用新案)。

結構、大手企業が明細書中に「年度末」と書いているようですね。

図:年度末関連特許・実用新案の上位出願人・権利者件数推移

大手企業の年度末関連特許・実用新案の出願は、ビジネスモデル特許ブームであった2000年代前半に集中しています。一方、オービックが2010年代半ばからまとまった出願を行っています。

発明の名称をAIテキストマイニングでテキストマイニングしてみると、

図:オービックの年度末関連特許のテキストマイニング(ワードクラウド)

外貨換算や仕訳など、決算処理に関する内容です。確かにグローバル企業は年度末になると各国の為替換算して日本円で決算資料を準備する必要がありますから納得ですね。

続いて出願ポジショニングマップ®を見てみます。横軸に累積件数、縦軸に2017年以降の出願件数比率を取っています。

図:年度末関連特許の出願ポジショニングマップ®

左上にある企業が直近年度末関連特許を積極的に出願しています。3社の出願を見ていきましょう。まずは、岩手県立大学。

特開2022-025059A
【課題】保育等に対する評価能力を向上させる端末装置、方法及びプログラムを提供する。
【解決手段】担当者端末装置10は、場面情報と場面情報についての見解を示す見解情報とを生成する端末側生成部と、場面情報と見解情報とをサーバに処理させる端末側送信部と、サーバから統合情報を取得する端末側受信部と、統合情報を担当者に提示する出力部と、を備える。端末側送信部は、サーバに場面情報及び見解情報を対応付けて記憶させ、サーバが担当者以外の者によって利用される他の端末装置から、その記憶された場面情報について見解情報を受信した場合、受信した見解情報をサーバによってその記憶された場面情報にさらに対応付けて記憶させる。統合情報は、サーバが場面情報に対応付けられた複数の見解情報を統合することにより得られる。見解情報は、保育指針等に於ける発達の視点に基づいて定められた複数の項目の内容についての評価結果を見解として含む。

年度末については全文中に記載されています。

S1814で、管理者端末装置10cは、統計結果表示情報に基づいて、図52の統計結果画面を表示する。図52の統計結果画面では、5歳児A組、2019年度「10の姿」の推移について、6月、10月、3月の「10の姿」に各評価項目についての見解の積算値の割合を示す円グラフが示される。ここで、年度初めの6月と年度末の3月では、園児の成長度合いが異なる。例えば、年度初めの6月よりも年度末の3月のほうがより高度なことを行うことができる。月毎に見解情報の積算値を割合表示することにより、見解情報の積算値の割合の変化を視覚化できるため、園児の成長の傾向や全体の保育の傾向を分析することが可能となる。

続いて住友重機械工業。

特開2021-155930
ショベルの管理システム
【課題】使用状況に応じた保証内容を設定できるショベルの管理システムを提供すること。
【解決手段】本発明の実施形態に係るショベルの管理システムは、評価対象のショベルの作動状態を検出する状態検出装置と、前記検出された前記作動状態に基づき前記ショベルの疲労度を算出し、前記算出された前記疲労度と関連付けられた保証内容情報を算出する制御装置と、前記算出された前記保証内容情報を表示する表示装置と、を備える。

年度末は

繁忙期情報管理部213は、時期と、価格の決定に用いる繁忙期係数と、を対応付けして記憶している。例えば、時期を、繁忙期・通常期・閑散期の3段階の繁忙期情報として分類する場合、通常期における係数を繁忙期における係数よりも低く設定し、閑散期の係数を通常期よりも低く設定してもよい。例えば、会計年度末のような補修の依頼が増える時期を繁忙期と設定してもよい。また、ショベル100の稼働率が高くなる時期を繁忙期としてもよい。

のようにこちらも全文中に書かれており、繁忙期の例として年度末を挙げています。そうですよね、年度末は忙しいですよね。

最後にガイアート(熊谷組の道路舗装関連企業)。

特開2021-080712
アスファルト舗装構造およびアスファルト舗装構造の製造方法
【課題】簡易な方法で製造でき、薄層で、従来型2層式ポーラス舗装に準ずる透水性および低騒音性を有するアスファルト舗装構造を提供する。
【解決手段】アスファルト舗装構造は、路盤と基層と表層とからなる。路盤と基層については一般的な舗装と同様である。表層は薄層ポーラス構造であり、20〜30mm厚である。最大粒径5mm以下の小粒径骨材とアスファルトとからなる。設計空隙率は18%程度である。さらに、簡易溝形成方法により、表層には溝が舗装長手方向に延設され、複数並設される。溝の幅は5〜15mm、溝の深さは5〜15mm、溝の間隔は30〜60mmである。溝間におけるポーラス空隙率は10%未満であり、溝より下部では14〜22%である。検証試験の結果、従来型2層式ポーラス舗装に準ずる透水性および低騒音性を有する。

他の2社と異なり、

本願出願人は当該技術を本施工に適用している。2017年度末までの累計施工実績は30万平方メートルであり、2018年度末までの累計施工実績は60万平方メートルであった。なお、2019年度末の累計施工見込は100万平方メートルである。その施工過程において、当該溝が騒音低減にも効果があることに着目した。

自社の施工実績を説明するための基準点として年度末を利用しています。

以上3社の直近の年度末関連特許を見ると、年度末といっても様々な文脈で取り上げられていることが分かります。

それでは年度末関連特許・実用新案の技術分野別出願トレンドはどうなっているのか?FI(ファイルインデックス)サブクラスランキングを見てみると、

図:年度末関連特許・実用新案の筆頭FIサブクラスランキング

G06FとG06Qでほとんどが占められています。

ちなみに、G06Qは現在のビジネスモデル特許関連の特許分類ですが、以前はG06F17/60でした。その関係で以下の推移を見ても分かるように

G06FからG06Qへ綺麗にシフトしています(G06Fのすべてが旧ビジネスモデル特許分類ではありませんが)。

ビジネスモデルに関する年度末関連特許例を見てみると、

特開2022-015852
株式会社日立ICTビジネスサービス
【課題】適切な業務管理を実行することができる情報処理システムを提供する。
【解決手段】情報処理システムは、所定業務を構成する各タスクの所要時間、および所定期間における複数のリソース各々の稼働可能時間、の各情報を格納する記憶部と、制御部とを備え、前記制御部は、前記各タスクの所要時間および前記稼働可能時間の各情報に基づき、前記各タスクに前記リソースを順次割り当てて担当リソースを決定する割当処理と、前記各タスクのそれぞれに関して、当該タスクの担当リソースによる実行数を所定のタイミングで集計する処理と、前記集計の結果を出力する処理を実行する。

があります。以下に示すように、やはり年度末=繁忙期・忙しいという文脈で利用されています。

企業は業務量に応じて担当者などのリソースを配置することで業務を遂行している。しかし、なにかしらの理由により急激に負荷が増加し、予定外の残業や業務遅延が発生することが少なくない。
一例として、発注依頼、発注手配、納品検収、取引記帳という4つのタスクで構成される発注の業務プロセス(以下、ビジネスプロセス、またはBPともいう)を説明する。予定外の残業が発生する例として、年度末となる3月中旬頃にハードウェア購入などの発注依頼タスクが急激に増加し、発注担当部署の発注依頼タスクや検収担当部署の納品検収タスクの負荷が急激に増加し、3月下旬に発注担当部署や研修担当部署の担当者が長時間の残業となってしまうなどが挙げられる。

それ以外に、面白いと思ったのはMXモバイリングの以下の出願。

特開2005-309704
株価予測システム及びそれに用いる株価予測方法並びにそのプログラム
【課題】 複雑な計算を行うことなく、株価予測を行うことが可能な株価予測方法を提供する。
【解決手段】 ステップS1ではキーボードから入力されたデータが入力処理にてパソコンに取込まれ、ステップS2ではパソコンが取込んだデータを基に相関性チャート生成処理を実行する。ステップS3ではパソコンが相関性チャート生成処理にて相関性チャートを生成すると、その相関性チャートを基に株価予測処理を実行する。ステップS4ではパソコンが株価予測処理にて株価評価値を求めると、出力処理にて株価予測結果あるいは相関性チャートを出力部または表示部を介してプリンタまたは表示装置へ出力する。

クレームを見ると、

特許請求の範囲1:公開された企業の経営情報から事業費率を計算する手段と、前記事業費率と株価との間の相関から近似曲線を求める手段とを有し、前記近似曲線を基に前記株価の予測を行うことを特徴とする株価予測システム。
特許請求の範囲2:企業の先頭年度から最近年度までの経営情報を基に事業費率を計算する手段と、前記事業費率と前記企業の最近年度末の株価との間の相関から第一の相関性チャートを生成する手段と、前記第一の相関性チャートから相関曲線を導く手段とを有し、前記株価を予想しようとする企業の事業費率から将来の株価を予測することを特徴とする株価予測システム。

ちゃんと読み込んで、この特許の考え方に沿って久しぶりに株式投資してみようかな。。。。

とそろそろ年度末プロジェクトからの現実逃避はこれぐらいにして、仕事に戻ります。

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