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あたまに常に重しをのせている『いつも「時間がない」あなたに 欠乏の行動経済学』

 自分は行動経済学について読むのがスキだ。損得だけで言えば絶対得する行動でも人は必ずそれを行うとは限らない。そういう思考のバグのようなものを見ると非合理的でテキトーなことしても人間だから仕方ない、と少し救われた気分になる。

 宿題や課題の期限は1か月後、だが全然計画的にやらず一週間前ぐらいから取り掛かり、時間が足りないと慌てながら提出日前日に終わらせた。そういう経験は1つや2つあるだろう。本書は何故人は余裕があったのにやらなかったのか?それについて実験で明らかにし、時間が足りない状態もお金が足りない状態も実は同じ「欠乏」といった物事で括れ、欠乏に陥った人間の状態や、組織への影響、欠乏から考える福祉のあり方などを考察する。

 まず欠乏は何かというと時間やお金など必要なものがない状態だ。そして欠乏していると主に集中力と判断力の低下をもたらす。課題の期限が迫って時間が欠乏しているなら他の誘惑を振り切り課題へ集中的に取り組む。一方で後先考えず他の物事を後回しにして、その場しのぎをしてしまう。
 そういった本書には欠乏に関わる様々な事例・実験があるが、特に興味深かったものは欠乏は無意識レベルで脳を占拠してしまうことだ。

 欠乏は無意識レベルで脳に潜む。飢餓状態の実験で、低カロリーで生活した人に文字が見えたらボタンを押す実験をした。TAKEのような文字は目で見た後ボタンを押す速度であったが、これが食べ物に関連するCAKEであったなら脊髄反射の速度でボタンに反応する。この脳に潜む欠乏は意外なほど人に負荷を描ける。
 農家の人の収穫期、つまり農作物を出荷しお金が入る時期のテストと収穫前の一番お金が少ない時期の成績を比べるとIQにして10ポイントほどの差がでる。お金がないという欠乏が脳に入ると判断力が低下するのだ。
 この判断力の低下はダイエット中の人にも起こる。ダイエットしなければならないということが思考の一番上に来ることで、そのことに脳の処理能力が取られることで認知能力の低下を起こす。
 大きな不安ややらなければいけないことに足元をすくわれると容易に脳の処理能力に圧をかけ、能力・判断力の低下を引き起こすのだ。ぶっちゃけ夫婦ケンカしたとか、仕事で疲れたとかそういうレベルでも脳の処理能力に圧がかかる。とにかく脳が脆すぎる。

 行動経済学の本を読むと人間ってテキトーだね、と救われることがあるが今回は憂鬱だ。自分は欠乏する側の人間である。欠乏のもたらす判断力の低下は怠慢や、意志力の低下、計画通りにいかないなど、様々な物事を引き起こす。こういう重しが常に頭に乗っているとなると沈む気分である。
 欠乏から抜け出すには、やせたり、転職したり、勉強しなければならないが欠乏がそれの邪魔をする。このまま欠乏したまま人生沈んでいくのか、ある日重しが取れるのかはわからないが、脳に欠乏が潜み続ける日々は続きそうである。

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