死んでくれ松五郎

「ねぇ死なないでよ。せっかくおしゃべり出来るようになったのに、こんなのいやだよ」
「泣かないで、ケイくん。犬の寿命は人よりずっと短いんだ。でもぼくはいつまでも君の心にいるから」
「やだよ松五郎、目を開けてよ……」
「ケイくん」
「松五郎?」
「心にいるっていったでしょ?」

 涙でグシャグシャの少年の顔には驚きと笑顔が入り混じっていた。少年はゆっくりと自分の心がありそうな場所に手を触れようとした。

バンッ!

 少年の頭に穴が開き、草むらに倒れた。空を染める夕陽より赤い血がゴボゴボと流れた。
 銃をもった無精ひげの男が流れる血を見ていた。

 やがて血が土手中に広がり、川まで侵食し、夕陽をさらに赤く染めた。すべてが赤くなっていく中、男は銃を構え左右をひたすら見回し、呼吸を荒くした。するとビュっと強い風が吹いた。男が風に怯み、目を閉じて、開けると何もない真っ白い空間になった。

「ヘイ!思い出の中で自分を殺した気分はどう?悪いならやめるといいわ」

 SFのように空中に画像が浮かび上がる。そこにはタンクトップをきた褐色の女性がいた。

「大丈夫だ。行ける」

 男は息を整え、気丈夫に振舞った。

「みんなそういうのよね。自分の名前、私の名前、場所とか目的とかいえる?ここに入ると混乱して忘れる人も多いから」

「俺の名前は梅田啓司、アンタは竹林アンナ、ここは俺の思い出の中でアンタの能力で潜っている。目的は……俺と松五郎の思い出を殺すこと」
「ご名答、松五郎は精神寄生体だからヨスガとする思い出を殺せば、彼も死ぬ。そうすればアナタの心が乗っ取られることもない」

 空間に扉が現れた。啓司はドアノブに手を掛けた。

「松五郎はまだ気づいてない。だけど思い出を消してけば、いつか気付き妨害する。そうなればやりきるしかないわ。今なら一度戻れる」

「早く悪夢を終わらせたい」

 啓司は扉を開いた。
 そこは見慣れた街と体操服姿で走るかつての自分がいた。

【続く】

さぽーとすると映画館にいくかいすうが増えます