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吾輩は擬態猫である。仇はまだ見つからない。

 吾輩は擬態猫である。名前はクラ。
 上司から地球を調査せよと派遣され、猫という生き物に擬態した。ひとまず猫のマネをし、ニャーニャー鳴いてるとガサガサとした手が私を撫で、フワフワした気持ちなった。そして撫でた主の後ろをトコトコ歩き、吾輩は主人の家に居ついた。
 今日も吾輩は調査へ向かう。猫たちに朝の挨拶を交わし、獰悪な種族である小学生を威嚇、近所のおばさんから鰹節をもらう。そうして午前の調査を終え、主人が吾輩のために開けている窓から家に戻った。
 吾輩はわざと首の鈴を鳴らすように歩き、主人に帰りを知らせる。今日はチュールの日である。あの舌に広がる甘美な味わいは素晴らしく、上司に提出を求められないよう報告せずにいる。
 リンリンとひとしきり鳴らしたが主人は現れない。書斎で寝ているのだろうか。
 吾輩はリビングを抜け書斎の扉の前につく。いつも閉まっているドアは吾輩が通れるほど開いており、嫌な匂いがする。
 書斎へ入ると主人が倒れていた。後頭部に一目で致命傷とわかる跡があった。
 吾輩の体毛は高速で白と黒に切り替わり、なにも考えが思いつかない。主人が殺された理由も。自分がやるべきことも。
 ふと近くに場所に本が落ちていることに気付いた。忠臣蔵だ。主人が好んだ物語であり、内容は仇討ちである。
 仇討ち、その言葉を聞くと上司の言葉を思い出した。地球ではバレぬよう現地の生き物を模倣せよ。忠臣蔵は実際に現地にいた生き物だ。模倣すべきである。
 善は急げ、吾輩はできるだけ大きな口を開け主人の頭を飲み込み噛み切った。簡易的な分析をかけ最後の光景を見る。背後から殴られ、なんとか立ち上がり扉に向かったところで事切れたようだ。仇は映ってない。ただ部屋の状況を見るに強盗ではなさそうだ。強盗でないなら知り合いだ。刑事ドラマで学んだことである。
 吾輩は解析を進めながら、主人がよく行く喫茶店へと調査へ向かった。

【続く】

さぽーとすると映画館にいくかいすうが増えます