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ブラッドボーン 夜明けを追う狩人 第四話 『聖職者の獣』

 

ナニカの正体を見極めるため目を見開く。それと同時に目の裏が熱くなり、何かが弾けたような衝撃が頭の中に響く。知ってはいけないことを知ったようなゾワっとする感触と共に相手の姿がハッキリと見えた。

体は全体的に黒く、身長は俺の2~3倍、足をくの字に曲げているので正確な大きさを掴むのは難しい。胸は肉が削ぎおとされたかのように肋骨が剥き出しになっている。手には鋭い爪があり、右腕は黒い地肌から白髪のような毛がまばらに伸びている。一方左腕は白と黒の毛がびっしり生え、太くたくましい。右腕の2倍以上の大きさか。頭部は黒い鹿といったところ。黒い毛が鹿の角のように広がり、威圧感がある。名前は聖職者の獣。名前の意味はわからない。ただ弾けた時そう見えた。

巨大な存在を目の前にしながらも冷静でいられた。先程の衝撃のおかげかもしれない。ゆっくり迫ってくる相手に合わせてこちらも下がり、後ろをちらりと見る。先ほど大橋にいた狼型や大男は追ってきていない。だが霧が後方に立ち込めている。おそらくあの霧を超えることは出来ない。そして目の前の獣を狩らなければ閉じ込められたままだ。狩人の本能がそう告げていた。

距離がある程度開くと巨大な左腕を杖のように使い、巨体を移動させる。石像も壊れた馬車も押し潰して目の前まで迫る。立ち止まった獣は右腕を大きく横に振る。俺は合わせて後ろに回避する。空振った隙を狙い素早く踏み込み左から右へと水平にノコギリ鉈を振る。が当たる前に左腕が脇腹に叩き込まれた。

血が噴き出し、骨が砕け内臓が押しつぶされるような痛みが全身に走る。内蔵を圧迫され吐きそうになるが、その前に後ろへ飛び退く。失った血の継ぎ足しと痛みをごまかすのを兼ねて輸血液を刺す。輸血液の数は10本程度、多くない。一度態勢を立て直したいが霧で戻ることは出来ない。もし死ねばまたあの夢に戻れるだろうか?だが保証がない。保証がないことにすがるよりも目の前にいる怪物を狩るほうが確実に生き残れる。獣なら巨大でも狩るだけだ。

腕の振りが届かないぐらいの距離を取り、行動を見る。見極めるまで手を出さない。腕の左右交互の振り回し、拳を交互に叩きつけてからの両手を組んで更に叩きつけ、左腕の大きく振り上げ叩き下ろす。左腕を使った接近。目立つだけあって左腕を使った攻撃が多いな……そして甲高い叫びと共に大きく飛び上がった。俺目掛けて落ちてくるのを前に飛び込み躱し、獣の後ろを取る。ここが絶好のチャンスだ。相手の背に向かってノコギリの刃を振り下ろす。二足歩行をしているが人型と違いよく刃が食い込む。血が勢いよく吹き出した。獣は後ろに地面をひっかくように腕を伸ばし抵抗するが大して血は出ない。この程度の傷、血を浴びればすぐ治る。

獣はこちらへと振り向き、右腕を振り上げ叩きつける。それを左に躱す。ここもチャンスだ。思いっきり叩きつけるせいか次の動きに移るまで遅い。再び刃を叩きつけ振り抜き、スイッチに手を掛け変形させながら、先ほどとは逆方向に振りぬく。……違和感を感じる。ノコギリ鉈を元に戻しながら、右腕が地面と離れるのと同時に距離を取る。変形した時刃になる部分を見るとノコギリ状になっていない。この獣相手には変形させるのは有効ではないか。

再び獣を注視し、今までの動きを反芻する。獣の習性か相手は同じ行動を繰り返す。距離によって動きを変えるぐらいの知能はあるようだが、隙を晒す行動をやめようとしない。なら相手の隙をつき続ければ相手の血が先になくなる。獣の力より、相手を見極める知性が勝つ。

危険なのは隅まで追い詰められた際、獣の横を抜けて位置を入れ替える時だけだ。これも思い切って走れば捕らえられることはない。思い通り少しづつ相手の血は削れる。このままいける。そう思ったとき咆哮が鳴り響いた。怒りを露わにした咆哮だった。

咆哮が終わると左腕を力強く叩きつけた。いつものように近づき斬りかかる。左腕が突如力強く振りあがる。その衝撃で俺は吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。対応された?いや怒りで動きが激しくなっただけだ。そう感じた。

もう一度動きを見る必要がある。輸血液を打ち、状態を整え距離を取る。だが最初安全だった距離はもう安全ではなくなっていた。獣は左腕をたたきつける。だが先ほどのような力強いものではない。左腕をたたきつけた力を利用し、鋭く飛び込む。後ろに飛びのき素早くかわすが、もう一度左腕をたたきつけて飛ぶ。後ろに下がるが、巨体から離れることができない。巨体が俺の体を押しつぶし、血を噴き出して弾き飛ばされた。

これ以上血を失うわけにはいかない。危ないが獣の脇をすり抜け一気に走り距離を取れるだけ取る。振り向きながら輸血液を二本使う。態勢は立て直せたが、鋭い飛びを連発されるとなすすべがない。獣は左腕を使い、すばやく向かってくる。そして飛び込みが当たる距離になると、再び左腕を叩きつけ飛んできた。後ろへ飛んでも追い詰められるだけ。なら前に出るしかない。

思い切って前に踏み込む。獣は頭上を通過する。相手は俺の背後に落ちる。素早く振り向き無防備な背後を切り刻む。余計なダメージは受けたくない。息が切れる前に離れ、後ろに伸びる手を躱す。正面を向き左腕の強い叩きつけ。右に飛びのき、斬りつける。そして振り上げるより早く離れる。動きは見切った。鋭い飛びは攻撃機会に変わった。

自分の距離で戦い的確に刃を刻む。相手の動きを見極め、他の攻撃の隙にも刃をさしこんでいく。やがて再び怒号の咆哮が響き渡りさらなる激情を見せる。より激しく左腕を振り回し、鋭い突きも繰り出すようになった。だが戦い方は変わらない。攻撃にいくら当たろうが無理に攻めに行かない。距離を取り確実に当てられる動きだけに手を出す。

最後の輸血液を使う頃には服がどちらの血で染まったかわからないほど真っ赤になっていた。だがそれは獣の毛皮も同じだった。戦いの終わりは近い。左の拳を叩きつけを躱し、右の拳も躱す。次の動きはわかる。両腕を頭の上で組み力の限り叩きつける。見え透いた動きには当たらない。叩きつけるとき下がった頭に目掛けノコギリ鉈を振り下ろす。

痛みに唸る声を上げ、ぐったりと頭をおろす。やるべきことはわかっている。相手の顔を正面に捉え、腕を引き絞り目玉に腕を突き刺す。腕は間接の手前まで突き刺さり頭の中まで到達する。不快な感触をしたものを力の限り握りつぶすと同時に勢いよく振り抜いた。

大量の血が目があった部分から溢れだす。そして聖職者の獣の体は霧のようなものを発しながら倒れる。それと同時に、大量の血をぶちまけ消滅した。あたりに血の雨が降る中、俺は勝利のおたけびを上げた。いつまでも叫んでいたかったが息が続かずむせてしまった。

少し冷静さを取り戻し、目的の門を調べる。先に続く道は開けられないようにガッチリ閉められ、横にある扉も閉まっている。ノコギリ鉈をたたきつけてみたが壊れそうにない。聖職者の獣を倒した時「剣の狩人証」というものを落としていった。これと扉は関係はなさそうだ。ただコレを掴んだとき興味深い文字が頭に流れ込んできた。「昔から聖職者はもっとも恐ろしい獣になると決まっている」

他に何かないか探す。診療室で目覚めた時にあった奇妙なランプが見つけた。先ほどまでなかったのに。俺はランプに触れ明かりをつける。そしてそのまま膝をつき、眠りの中へ吸い込まれていった。

 


さぽーとすると映画館にいくかいすうが増えます