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ブラッドボーン 夜明けを追う狩人 第一話 『目覚め』

「『青ざめた血』を求めよ。狩りを全うするために」 

暗く瓶が散らばる診療所の台から目覚め、椅子に置いてあったわけのわからぬメモをみながら、夢とも現実ともつかぬ出来事をゆっくり思い出していた。

車椅子の老人に輸血され、突然現れた赤い獣が唐突に燃える。醜い白い小人たちが体中を這い、目の前が暗くなると「ああ狩人様をみつけたのですね」という声が聞こえる。

全て同じ診療所の中で起こったことなのにまるでまとまりがない。そして全てぼんやりとして曖昧だ。ただメモにある『青ざめた血』、それが頭の中に張り付く。俺はひとまずこの部屋から出ることにした。それにしても診療所はここまで荒れていただろうか?だが記憶すらもあいまいなため、何一つ確信が持てない。ひとまず外に出よう。それからだ

「ウッ……」思わず声が出て仰け反った。獣がいる。夢の中に出てきたような狼めいた黒い獣。人より大きく、虚ろな目でこちらを見つめる。俺はどうすればいいか全くわからなかった。戦うにしても丸腰だ。もしかして友好かもしれない。そんな楽観的考えを持って近づく前に、下に広がる血と死体に気付くべきだった。無防備な俺の腹を鋭い爪が真横に切り裂いた。辺り一面に自分の血が広がり、痛みは腹から全身に駆け巡る。喉まで届いたが、何も吐けず悲鳴すら出てこない。痛みと混乱に判断を鈍らせているうちに、次は牙が喉元へと食い込んだ。今度は痛みはなかった。ただ全身の血が抜かれるのを感じ、意識は遠のいていった。

俺が目覚めると先ほどの陰鬱な雰囲気とは対称的な白い景色と花々が広がっていた。天国にいるのかと思ったが、直感でここを天国ではないことを感じた。天国よりも夢に近い。夢の中を彷徨うような覚束ない感覚の中、人を見つけた。と思ったがただの精巧な人形だった。今にも動き出しそうなぐらいしっかりしていた。他のところに目を向けると俺の欲しいものがあった。

最初見た夢の中で体に這っていた不気味な白い小人が3つの武器を持っていた。一つだけくれるらしい。巨大な片手斧、鋭い刃のついた杖、逆U字になった変わった形のノコギリ。俺は逆U字のノコギリを選んだ。ギザギザの刃が獣の肉を引き裂いてくれるような気がしたからだ。ノコギリを掴んだときコレについてわかった。ノコギリ鉈、シンプルでわかりやすい、いい名前だと感じた。俺は武器を手に取り、もう一つのプレゼントの短銃も受け取った。が弾がついてなかった。今はノコギリ鉈だけで十分だ。俺は再び目覚めるため小人たちがいる石碑に触れ、導きに従う。そうすると奇妙なランプの前で目覚めた。さっきまでいった診療所だ。

俺のするべきことはわかっていた。全力で走る。そして獣の背後からギザギザの刃をナナメに振り下ろした。硬くごわついた毛皮をものともせず、刃は皮膚にくい込み、肉を切り裂き、血が噴き出る。期待以上の切れ味だ。死には至らないが、獣は痛みで唸り声を上げる。もう一撃を加えようとしたとき、体が動かなかった。全力で走り、思いっきり鉈を振り下ろしたのだ。息が上がっていた。獣は鋭い爪を立て、再び腹が真横に引き裂かれた。あの時と同じぐらい血を吹きだし、顔を歪める。先ほど自分を死に至らしめた痛みだ。傷口は赤赤とし血が滴る。だが臓器までは飛び出していない。

意識が遠のくあの感覚は二度と味わいたくない。痛みに耐えながら、悲鳴を上げるのを抑え、鉈を再び振り上げた。そのまま振り下ろし、肉を切り裂き、返り血を浴び、苦しみの叫びを聞く。 血を浴びると傷口から入っているのを感じた。うめき声をあげ、ひるむ獣に更に鉈を振り下ろす。肉を刻み、血が噴き出る度に血が体に吸収され、痛みを感じなくなり全身に躍動感が巡る。昂る気持ちのまま数度鉈を振り下ろし切り刻むと血はでなくなり、うめき声は断末魔へと変わった。

傷口に手を当てると引き裂かれた腹は元に戻り、服さえも直っていた。血がこの信じられない再生を可能としたのだろうか。ただ飛び出た血は完全に体内に戻っていないのを感じた。もっと血がほしい。だが傷口はふさがっており、そこから血はもう吸えない。ただ獣の足元になにかあった。転がっている赤液の瓶を見る、ラベルには輸血液。注射器のような器具がセットされている。使い方は直感でわかった。腰辺りに輸血液を刺すと、全身に血が巡り体力が戻っていることを感じた。

死闘を終え、血が体内を巡りだいぶ落ち着きを取り戻すと、自分について考えた。死に物狂いで戦ったわりには一息ついたら普通に動けている。返り血を吸収するし、輸血液の使い方が分かれば、武器もごく自然に振り回していた。なぜ出来るのかわからない。過去の記憶がひどく曖昧だ。ただ狩人という夢で聞いた言葉が脳裏をよぎる。俺は狩人なのだろうか?

「『青ざめた血』を求めよ。狩りを全うするために」 

俺が狩人なら狩らねばならない。そして狩りを全うするには『青ざめた血』というものが必要らしい。ひとまずそれを探すことにするか。俺は錆ついた診療所の扉を押す。ギギィと音がなり開くと、外は陰鬱な雲につつまれた夕暮れの空が広がっていた。


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