被害金ランキング　－４００億の男

　ザァザァ、いつもはマラソン大会に備え、夜中走る人がいる住宅街も、この大雨の中ではいないようだ。
　レインコートを被り、周りに注意し俺は自慢ババアの車の前まで来た。トンカチを取り出し、車のボンネット目掛け叩きつけた。ガンッ！と予想以上に大きな音が鳴りあわてて車から離れた。

　……

　電信柱の裏から様子を伺ったが人が出る気配はない。雨音が消してくれたか。ボンネットの大きなへこみを確認し、防水スマホで被害金アプリを開く。

高松　高司　１０万円　圏外

　ババアがこの車は高いと騒いでいたが１０万、車には詳しくないので高いのかわからない。だが被害金アプリはリアルタイムで出した被害が記録されること、そしてトップランカーには被害金と同じだけ賞金がでるのは事実だろうとわかった。仕組みは不明だが酔狂なシステムを作る以上そこは渋らないだろう。

　「おいちゃん！楽しいね！おいちゃん！」

　急に大声がしてその方向に振り返った。傘もささずにジジイが歩いていた。雨ジジイか、俺はほっとした。なぜか雨の日にだけ徘徊するボケ老人、家族も見放してるようだ。ジジイはこちらを気にせず四つん這いになり、水の溢れたドブに向かって叫んでいた。
　稼ぐなら何時間もかかる１０万が被害なら一瞬、このジジイを壊したらいくらだろうか？ふと気になりジジイの頭に足を乗せた。水面がブクブクと泡立ち、顔を上げようと頭を震わせていた。だが少し足に力を加えるだけでジジイはズブズブ沈んでいった。やがて動きが止まり、泡がなくなるのを確認しアプリを開く。

　２２１０万円　９８２位

　２０００万！一瞬で年収１０年分！しかし９００位より上は億の世界だ。これでは効率が悪い。ジジイでこれなら子供はどうだろうか？未来のないジジイより価値があるかもしれない。丁度よく南町に放置子がいる。もしも今、外にいるなら楽に出来る。
　俺は南町に向かうことにした。

【続く】