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舞台「熱海殺人事件 ラストレジェンド ~旋律のダブルスタンバイ~」の感想

先日、改装のためお休みに入る紀伊国屋ホールで見てきました。この紀伊國屋ホールには思い出が多く、おそらく初めて見に行った舞台がこの「熱海殺人事件」。このときは演劇をお休みされていたつかこうへいさんが、「今日子」という舞台で復活されたあとに、JCBカードがスポンサーで「チケット1000円」という宣伝でこの熱海殺人事件を売り出したのを覚えています。自分も始発でチケットを買いに並びに行ったなあ、、、、とか思い出します。自分が見たときは、木村伝兵衛役が池田成志さん、熊田留吉役が春田純一さん、水野婦警役に平栗あつみさん、大山金太郎役が酒井敏也さん、そして劇中に出てくる歌唱場面で、プロレスを一度引退された長与千種さんが出演されました。このあとつかさんは長与さん主演で「リング・リング・リング」という作品を上演した記憶があります。

このあとも「熱海殺人事件」はバージョン違い含めてかなりの数を見ていると思うので、おそらく観劇した中で一番多く見た演目です。個人的には最初に見たバージョンと、阿部寛さんの「モンテカルロ・イリュージョン」が好きです。劇団☆新感線のいのうえひでのりさんが、つかこうへい劇団の主力二人の風間杜夫さん、平田満さんで熱海をやられるとなったときはものすごく嬉しかったです。もちろん見に行きました。このときはつかさんの娘さんで宝塚退団後の愛原実花さんが水野婦警役を演じられて非常に良かった記憶があります。

そういういろいろな記憶が残りつつ、今回のお休み前の紀伊国屋ホール。正直、コロナ禍の状況で行けるのか微妙でしたが、仕事の都合も合わせてなんとか行けることになり、足を運んで観ました。あの箱の大きさがすごく好きですね、第三舞台も何度も観ましたし、他にもこの劇場で芝居を見たこと数しれず。そういう部分も含めて、楽しみにしていました。

さて、今回の熱海はダブルキャスト。その日によって若干、配役が変わります。自分が観た回は木村伝兵衛役が味方良介さん、熊田留吉役が細貝圭さん、水野婦警役を乃木坂46の新内眞衣さん、大山金太郎役は松村龍之介さんの配役。ということで、二時間のお芝居となります。

さて、感想としてはSNSにも上げましたが、いくつか、、、、、まず配役として、味方良介さん。すごく良い演技というか貫禄に思えました。かつて池田成志さんが演じたときにすごくサディスチックさと優しさのバランスが絶妙な演技だったと思いますが、今回の味方さんもすっかり木村伝兵衛役を自分のカラーに染めた感じがあります。以前見たときは台詞回しに弱さを感じましたが、今回は迫力たっぷりの演技で良かったですね。見た目がイケメンで若いので、落ち着きにかけるかなと思いましたが、杞憂でした。昨年の飛龍伝もそうですが、どんどん味わいを感じる方です。「教場」に出演されていましたが、もっといろいろな場所で活躍できるだろうなと思います。

熊田留吉役の細貝圭さん。演技自体は、キャリアも積まれている方なので、そういう部分では安定していますが、個人的にはこの役がちょっとあっていないというか、熊田留吉のカラーとはちょっと違うかなという印象が残りました。富山の田舎から出てきた成り上がりの刑事という設定以上に、泥臭さとか汗臭いというキャラクターですが、細貝さんは熱演しているのですが、、、やはりかっこよすぎるかな?と。方言を話したり、割と無茶な捜査をするのですが、破天荒なキャラになるには、ちょっとスマートすぎて。むしろ木村伝兵衛役をやったら面白いのかなと思います。特に前回の熱海殺人事件で熊田役にNON STYLEの石田明さんを配したときに、非常に良いキャラでハマっていたことも大きいと思います。今回も石田さんは出ているので、どうだったのか?気になるところです。細貝さんはやはりうまいので、味方さんのラブホテルでの出来事を語る回想の場面でのアドリブに、うまくジョニーデップネタを絡ませながら対応していたのは、さすがだなと思いました。

大山金太郎役の松村龍之介さん。2.5次元などで活躍されている若手の人気ある役者さん。こちらも熱演ですが、やはり大山金太郎のイメージにマッチしないのが難しい。五島列島から出てきた頑固な田舎者という典型的な役に役者がチャレンジという構図はよく分かるのですが、かっこいい人がやってしまうと、こちらも泥臭さとか地べた這いずり回るみたいな色がやっぱり出ない。女性への卑屈さや、アイコへの屈折した愛情なども、湧いてこないので、これは俳優さんが悪いとかではなく、キャスティングの問題。役者のチャレンジという部分は大事だと思いますが、大山金太郎の持つ「下衆さ」を出すには、配役の難しさを感じます。松村さんご自身の熱演は良かったと思います。方言や熱海の海岸での殺す場面までの流れなどは、松村さんの持つ迫力を存分に出されたのではないかと。

そして、新内眞衣さん。今回の配役ではちょっとキャリアの違いも含めて大変だったと思います。他の方々は経験も多く積まれていて、舞台表現という点ではギャップが大きかった。新内眞衣さんの舞台は「犬天」と「墓場・女子高生」「続・時をかける少女」などを観ています。「犬天」は正直、厳しい印象がありましたが、他の作品ではむしろよく演じているなあ、、、という印象を持っていました。今回は逆に厳しかったかな?という感想です。今までの役柄と違い、水野婦警は出番も多く、途中被害者「山口アイコ」になりきっていくなど、比重がぐっと上がっていきます。今回はどの程度稽古に参加できたのか?がわかりませんが、声があまり通っていないか、もしくは大きな声を出すだけでセリフの抑揚が少なかったり、感情を出す場面での平坦な感じが気になる事が多く、ちょっと厳しいなあ、、、と。特に結婚のために静岡に行くというフェイクをするのですが、このあたり木村伝兵衛への愛情と役柄の葛藤を織り交ぜた演技のときに、どうも軽くなってしまう。もっと感情含めてぐわっと湧き上がってくるものがあるといいのですが、今回はやや単調に感じられた気がします。立ち姿も良いので、頑張って欲しいのですが、発声も厳しかったので、なにかきちんとレッスンを受けられるような機会があると良いかなと思います。

ただし、以前演じた今泉佑唯さんよりはかなりうまいです。これはキャリアの差がはっきり。今泉さんが出演したときは、まだ演技のキャリアがほとんどなくて、かなり厳しかったという状況でしたので。

あと、演出上の気になった点を2つ。

まずひとつ、この岡村俊一さんが演出になってから、毎回その時期の話題作のパロディみたいなものを盛り込んで笑いにしています。今回は鬼滅の刃でしたが、、、、客が面白がっていない気がします。細貝さんが女装しても正直、そこまで楽しい感じがない。滑り気味なパロディに個人的には思います。つかさんの演出でもそういう作り方はしてなかったかと。おふざけ含めて、いかに楽しませるか?は大事だし、そういう感性もつかさんが大事にしてきたもの。岡村さんは特につかさんからいろいろと学んだ部分も多いと思います。しかしこういう盛り込み方は、へえー、、、、位で終わってしまうもので、さほど面白くないなあと個人的には思いました。

もう一つ、これはラストの熱海の殺人での山口アイコの殺害について。ここ、演出によっていろいろと変わっていて、今回はアイコが「コケ」である設定は使いましたが、大山金太郎が帰ろうとするアイコにお金を渡して「なんでもやってくれるんだろ」っていうゲスさを出す演出はなくなっています。もちろんいろいろな演出もあって、岡村さんは前回も今回も「大山金太郎の失望」という部分からの筋書きにしている感じですが、これが正直アイコの失望や金太郎の殺意にはちょっと弱いと感じています。大山がそこまでみっともない人物だからこそ、最後にアイコへの殺意が強く湧くという流れになるので、島の大関になる相撲の試合を覚えていない悲しさからくる殺意は、どうにも弱い気がします。木村伝兵衛の「踏ん張れたんじゃないのか?」というところにつなげるという意味では、今回のバージョンのほうがいいと判断したのでしょうけど。個人的にはもっと大山の下衆な部分が強調されてほしかったと思いました。

この「熱海殺人事件」はそういう人の人らしいみっともない部分、汚い部分を見つめつつ、でもそこから出てくる「人らしさ」みたいなものが浮かび上がる作品です。同じ演目を何度観ても面白いのは、その「人らしさ」みたいなものを役者さんがどのくらい放出して、客席にぶつけてくれるか?だと思っています。今回はその良さも今ひとつな部分も含めて、最後(一旦)の紀伊国屋ホールを楽しんだという点で良かったかなと思います。

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