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舞台「迷子の時間−語る室2020−」の感想

先日、パルコ劇場にて観劇してきました。作・演出の前川知大さんの主宰劇団「イキウメ」はかなり好きで足を運ぶことが多いです。今回は劇団公演ではなく、亀梨和也さんを主演に迎えての外部公演ということで、ファンの方が多く詰めかけていました。転売屋もすごい値段で出していましたが、売れたんですかね、、、、、、。そんな心配はどうでもいいとして、当日の劇場はかなり混雑。正直、ちょっと不安はありつつも無事に芝居を楽しんできました。

あらすじですが、

ある田舎町で起こった失踪事件。幼稚園の送迎バスの運転手と園児一人が山道で行方不明になる。5年経ってもその行方はわからない。事件当時、現場に調べに行った警官はその園児の叔父。そこで警官は身元不明の少年と遭遇する。取り調べをしようとするが、隙をついて逃げられてしまう。その後、園児の母である警察官の姉、運転手の兄、警察官の三人は複雑な関係性を経て、今は共に時間を過ごしている。そんなところにやってきた車を盗まれた男は霊媒師で、かつて姉が息子の行方を探すために頼ったことがある。その霊媒師が行方不明の現場にやってきたわけは?さらに現場にやって来たのは、兄と妹。財布を無くしたということでやってくるが、この兄は警察官の姉とその日に偶然出会っていた、、、、、、この日に起こった出来事から見える失踪事件の全貌とは?

という話です。

まず題名の「迷子の時間」ですが、失踪した人の迷子という比喩もありますが、基本は喪失した時間に対する「迷子」という筋書きになっているので、どちらかというと残された家族の方の意味合いが強いです。特に園児の姉(貫地谷しほり)に関しては、子供が失踪したことによる精神の不安定、離婚、運転手への一方的な批判、霊媒師への罵倒などなど、もちろん母としては起こりうる精神状態を描きつつ、そこからの回復という描き方を通して描いていきます。警察官(亀梨和也)も同様に甥っ子を見つけることができず、参考人にも逃げられる。姉の再生を優先して恋人とも別れる。その時に同じく失踪したバスの運転手の兄(忍成修吾)との交流を通じて、姉の再生を進めていく。運転手の兄も誹謗中傷を乗り越えて、ともに帰りを待ち続ける。こういうプロセスが亀梨和也さん、貫地谷しほりさん、忍成修吾さんの演技でエキセントリックだったり、穏やかだったり、緩急をつけた演技で見せていきます。貫地谷しほりさんはやはりうまい。感情の引き出しというか、観客に伝えるうまさが非常に際立っていたと思います。

面白かったのは霊媒師の古屋隆太さん。胡散臭いと言う話そのままで、実際、この人に本当に霊媒師としての力は実質ないも同然なのですが、それでも何かを感じるというか、そういう世界そのものの存在は信じている。途中、人の意識の意識の総体という表現があって、死んでも人の意識は図書館みたいな場所に収められていて、その総体とコネクトすることで存在を確認できるという話が出てきます。これはちょうど3年ほど前に前川さんがシアターコクーンで長塚圭史さんと組んで上演した「プレイヤー」という舞台にも出てきた設定で、そのことをふっと思い出しました。もっとも「プレイヤー」は一気に恐怖感を募らせる話ですが。

人の意識の総体という考え方は面白いけど、意識自体が何かしらの形で外部に預けられるという概念、これ自体が実際はどうなのか?というところからスタートだと思いますが、まあコネクトしたいとは思いません。

霊媒師がきた本当の目的は、実際に失踪事件があった日のちょうど5年後に現場に訪れています。実は盗まれた車で一緒に来たのは事件当日、警察官の前から失踪した少年(松岡広大)。その少年は失踪した運転手の息子。時系列があっていませんが、彼は未来から偶然やってきてしまった。この失踪事件にはこの地域特有の気象現象から発生した時空トンネルのようなものの存在があり、少年は運転手の失踪後にその父の話を思い出してバイクで現場に行ったら、たまたまそのトンネルを通って失踪から5年後の世界で来てしまった。偶然霊媒師に会って、その事実を信じた霊媒師とともに山道までやってきます。

そして落とし物をした兄(浅利陽介)と妹(生越千晴)。この二人は血は繋がっておらず、実は兄は失踪した園児の成長した姿。失踪した際に運転手とともに過去の時間へ迷い込み、そのままその時間軸から生活をして、現在に至る。運転手は父として園児を育て、家庭を持ち生活をする。この運転手は病気で亡くなり、兄は途中ヒッチハイクをしながら父の葬儀へ向かう。その時偶然、母である姉とお互いの存在を認識しないまま出会う。母は霊媒師の車を無断で借りて(笑)運転し、自分の息子を葬儀場所まで送りとけるという体験をすることになります。

この少年と兄の部分では、自分のいるべき場所とは違う世界にいることからくる不安と存在の証明という話が多く出てきます。例えば父がわりに育ててくれた運転手は戸籍がない。時系列を超えて過ごしてしまったので、実際に戸籍は存在しますが失踪したことになっている。そのため存在証明ができず、医者に実費でかかるなどのエピソードが出てきました。金銭の話はさておき、存在証明に関しては非常に興味深い部分でした。

自分の存在が危うい位置にあるまま、立ち続ける。これがどれだけの怖さか、、、、社会から完全に隔離された異邦人どころではなく下手したら存在自体が許されない人として生きていく。未来から過去にやってきた少年も同様で、彼は食いつないていくためにひたすら「スリ」を繰り返して生きていきます。

この舞台作品では、消えた側、去られてしまった側の両方の視点が存在することで「喪失した時間」とはどういうものか?その「迷子の時間」を経たところから始まることを少しだけ感じさせて終わります。観客の中には、綺麗な解決策みたいなものを描いた方もいるかもしれませんが、前川さんの作風なので、個人的には納得しています。起こってしまったことへの解決は時間が経ってしまった今はどうすることもできず、その後の生き方に向けてどう向き合うか?という描き方。前川さんの作品の中では、割とポジティブだなと思います。
ただし、、、、、現代に迷い込んだ運転手の息子にとっては、迷子の時間が続くという終わり方は、殻ずしもハッピーエンドでもなく、失踪した父親の免許証をスリをした財布から見つけるという部分では決して道が広がったとは言い難い。そして兄と妹においても、兄は最終的に自分の存在に関して戸籍は作ることができたが、決して存在証明そのものではない。失踪された側の気持ちが少しほぐれていたことと、そうでない側の隔たりは残されているので、迷子の時間は彼らには終わっていないことが、対称的な余韻でもあります。

役者さんですが、みなさん存在感が強い方ばかりで良いと思いました。まず亀梨和也さん、ジャニーズの方は声量と動きの大きさはしっかりと身につけているので、今回の芝居のような感情の起伏や押さえ方をどういうふうに演じるかな?と思いましたが、さすがにキャリアを積んでいるだけあって、ストリートプレイでもしっかりとした演技でした。声質が少し独特な感じがして、聞き取りにくいかな?と思うところも若干ありましたが、演技自体のうまさはさすがだなと。地味な警察官役ですが、やっぱり華のある方は立つだけでも違います。

貫地谷しおりさんは最初にも書きましたが、引き出しの多さが見事。途中、霊媒師へ罵倒するシーン、穏やかになっていく過程、どの場面でも「母」」という空気を纏っている演技がさすがだと思います。忍成修吾さんはドラマなどでは嫌味な役も多かったりしますが、この舞台では一貫して失踪した弟を思いやる兄を演じて、優しさが滲み出る演技でした。幅の広い方だと思います。霊媒師の古谷さん、胡散臭い喋り方含めて、演技プランがしっかりとされている。本当に霊媒師としての力があってはいけない役柄にうまくハマっていて、オネエっぽい喋りやら含めて、前川さんの演出と見事にハマっていました。松岡さんの少年役は典型的な家で少年というか、どうしていいのかわからない(当然ですよね)これから先の生き方が見えない役ですが、粗雑さ含めて、その年代らしい演技を伝えていました。浅利さんと生越さん、浅利さんはいつもながらの安定度、生越さんはモダンスイマーズで何度か拝見していますが、声がよく通る女優さんで個人的に良い演技をされる方だと思います。

正直なところ、この芝居の序盤を見た時には、筋書き的にどうなるのか?、、、、というのがちょっと不安でした。動きが非常に少ないので。ストーリも事件を丁寧に描くこともあって、現代での状況への繋がりがあまり進まないし。見ていくうちに細かい部分含めて、世界全体の繋がりが生まれて、ラストまで見た時にこの舞台のタイトルの意味も含めて「おおー」っていう気持ちになって劇場を後にしました。こうやって感想を残していると、もう一回見たいなあという気持ちが出てきます。映像でもこの作品はいいかな。筋書きの中で爆発力を見せる作品もあります。この「迷子の時間」はそういう作品ではなく、流れていく時間の中で、それぞれの登場人物が作るそれぞれの時間の絡み合いの中から、作品世界全体が見えるようになっていて、改めて面白い作品だなと思います。

イキウメではなかなかこういう雰囲気の作品に出会うことはなく、もっとハードというか、実際には怖さも含めた作品を描くことが多いので、前川さんの作風の広さも改めて感じた良い舞台でした。

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