【横浜キヤノンイーグルス】第5節を観てラックのようなものについて考えてみた
リーグワン、2020年2月6日の横浜キヤノンイールグス対クボタスピアーズ船橋・東京ベイ戦の後半7分50秒頃のプレーです。横浜のゴール前に船橋がボールを運び、ブレイクダウン(密集)ができました。そこから、船橋4番のヘル ウヴェ選手がボールを持ち出しトライをしたのですが、TMOになり、トライは取り消されました。ここでのプレーがどのようなもので、どう判定されたのか気になったので調べてみました。
このブレイクダウンはラックだったのか?
ラックの定義は、次のようにされています。
問題の場面では、横浜の選手がブレイクダウンの場所にはいるものの、地面に倒れていて、ボールの争奪には参加していません。つまり、ラックが成立する要件が充されていないのです。ではここで起きているのは何なのでしょうか?答えから書くと「タックル」になります。
単に「タックル」と書くと、一般的には、ボールを持った選手を守備側の選手が捕まえて倒す行為という印象が強いので、ここでは、タックル後に発生したボール争奪戦で「ラック」にならなかったものを「ラックのようなもの」と呼ぶことにしましょう。つまり、問題の場面は「ラック」ではなくて「ラックのようなもの」であったのです。
競技規則では「ラック」と「ラックのようなもの」は区別されていて、適用される規則が違います。ラックのなかでは手を使ってはいけない、というのは競技規則に書かれていますが、「ラックのようなもの」については言及がありません。ウヴェ選手は「ラックのようなもの」の中で手でボールを拾い上げて、トライをしましたが、反則を取られて取り消されました。しかしながら、その判定の根拠となる規則がはっきりとしない状態なのです。
「ラックのようなもの」は増えている
私がラグビーを見始めた頃(1980年代中頃)は、タックル後は守備側の選手は、ボールを激しく取りに行くのが一般的であったように記憶しています。一方、近年のラグビーでは、タックルが起きても無闇にボールを取りに行かず、ラック両脇に立ち次の攻撃に備えるのが一般的になって来ました。つまり、「ラックのようなもの」が出来る場面は増えてきているのです。
瞬時に区別することは可能か?
「ラック」と「ラックのようなもの」は競技規則上扱いが異なりますが、この違いを理解している人は、コアなラグビーファンでも少ないように思います。(私も今回教えて頂くまできちんと理解していませんでした)またプレイヤーに、試合中瞬時に両者の違いを認識しろというのはかなり酷である気がします。日頃「ラグビーのルールは難しくない!」という主張を展開している私でも、この違いを説明するのは至難の業です。
いくつかの提案
ワールドラグビーは「ラックのようなもの」における手の使用の可否について、明確化する必要があると思います。いくつかの国では、GMG(Game Management Guideline) と呼ばれる文書を作成し、ブレイクダウン全般での手の使用の可否に言及しているようですが、できれば世界統一基準が望ましい姿であると思います。
「ラック」と「ラックのようなもの」を区別することが本当に必要か再検討する。先にも書いたように、全力でぶつかり合いながら密集でボールを争奪している選手に、どちらの状態であるかを判断させ、プレーを変えさせるのは、やや酷であるように思います。また観客にも分かりづらいですし。
日本協会にもGMGに相当するドキュメントがあるのでしたら、ぜひ一般のファンにも公開して頂きたいと思います。
おまけ
米国のGMGにはブレイクダウンでの手の使用について、次のように書かれています。オーストラリア版もほぼ同じ意味のことが書かれています。ざっくり書くと、タックル時は、少なくとも片方の足がボールより後ろにあれば、ボールを持ち上げて良い。ラックでは両足がボールより後ろにあれば、バインドを外してボールを持ち上げて良い。さてさて、日本でも同じでしょうか?
謝辞
競技規則の解説をしていただいた3RCと海外の状況を教えて頂いたRugbyRefs.com に感謝します。
参考リンク
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