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甘い再会


急いでいた。

その日の私はめちゃくちゃに急いでいた。
一刻を争っていた。1秒をも取りこぼすわけにはいかなかった。

がしゃがしゃと重い手荷物を振り乱し、
なけなしの体力と筋力を振り絞り、とうの昔に乱れた呼吸を喘ぎ散らかしドスドスと頼りない走りを見せていた。

持久走こそこの世の地獄と思っていた学生時代、まじめに体力を養うこともなく無事中年にさしかかった私はもちろんまともに走り続けられるわけもなく、まもなく膝は軋みだす。

も、もうダメだ…!

そう思った瞬間、濃厚な甘い香りが頭から振りかぶり、身体中の緊張を解いた。

見上げるとそこには…


満開の金木犀が。


満開の金木犀が!!!



まだ咲いてる金木犀がいた!!
今年はすっかり通り過ぎてしまったと思っていたのに!!

「…ぇやー〜〜〜ぇぇえー〜〜…」
不意打ちのあまり声にならない変な声が漏れる。

心の声が隠せない。



瞬間、時間は忘れていた。
なぜか小さくベソをかいていた。


「がんばる…っ!ありがと!」


目に映るぜんぶがキラキラと輝き出した、
突きぬけるような秋晴れの朝だった。











なにをそんなに急いでいたのかって?

…バスに乗り遅れそうだった。(小声)

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