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ひろくん と におい

「長く大切にしたいもの」
同じものを持っていても、
そのものにまつわる物語は、人それぞれ。
このお話は、ものを通して
大切な時間を記憶しようとした
ある男の子の物語です。

…ひろくん まっているかなぁ
もう 10ぷんも おくれちゃった…

ぼくは はしって こうえんへ むかった

「たかくん おそかったね」

あやまろうとした ぼくに 
さきに こえを かけたのは ひろくんだった
ぼくが おどろいた かおをすると
ひろくんの おかあさんが 

「たかくん こんにちは きょうも おねがいね」

ひろくんは めがみえない
こうえんで あそんだ かえりは
おとなりの ひろくんちまで ぼくとかえる

「ひろくん どうして ぼくだと わかったの?」

「ぼくは おとを きいて見るんだよ」

「たかくんの くつのおと それと
おくれたから はしってくると おもったんだ」

「たかくんも めを つむって きいて見て」

ぼくは びっくりした
めを つむると いままで きいていなかった
おとが きこえてきた
とおくで はしる くるまのおと
かぜで こすれる はっぱのおと

「ひろくん きょうは ゆうやけが きれいだよ」
おうちへ かえるときに ぼくは しまったと おもった

「そうだね きょうは べんちが あたたか だったから
いいてんき だったよね」

「ぼくは さわって見るんだよ」

ひろくんは そういうと てを すこし つよく にぎってきた

つぎのひは あめだった
かさをさして まっていた ひろくんは
ちょっと げんきがなかった

…そうか あめで おとが ききづらいものね…

「あめのひは ほこりの においが するんだ」

「え? おとが ききづらいから じゃないの」

「ぼくは においを かいで見るんだよ」

「はっぱや はなの においが すきだな」

ぼくは びっくりした
めを つむると いままで かいで いなかった
においが してきた

「ほんとだ あめは ほこりの においだ」

ひろくんが てんこうすると きいた ぼくは
おくれて いないのに こうえんへ はしった

「たかくん いままで ありがとうね
いっしょに しゃしんを おねがいね」
 
ひろくんは ずっと したを むいていたけれど
おかあさんの こえのするほうを むいた

かえってから つくえのまえに すわって
かんがえてみた

…そうか ひろくんは しゃしんを みることが
できないから ぼくを おぼえていて くれるかな…

ぼくは めをつむって きいて見た

おかあさんが ごはんを つくるおと
おとうさんは てれびを みているのかな

こんどは さわって見た

ランドセルから ふでいれをだして
えんぴつを にぎってみた
いたっ! さっき けづった ばかりだった

そして さいごに かいで見た

きょうかしょの におい
けしごむの におい
かわの においは… ランドセルだ

そうだ!
ランドセルは ひろくんと おそろいだ

ぼくは ランドセルを ひらいて 
まくらもとに おいた


お し ま い

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