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『はじまりのとき』セルフライナーノーツVol.1 「かぞくのじかん」

今回から早速楽曲についてのおはなしに入りたいと思います。
「はじまりのとき」再生のご準備はよろしいでしょうか?
(ダイジェストでもイントロ部分をお聴き頂けます)

アルバム一曲目を飾るは、LITTLE TEMPOさんのスチールパンのイントロが印象的な「かぞくのじかん」。 歌い出しの歌詞は

昨日までの 騒がしさがうそのよう 
目覚めたての 小鳥のうたに 誘われるままに 
ぬくもりの 残る寝床を抜け出し
束の間の旅 森の中そぞろ歩き
   

アンサリー『はじまりのとき』「かぞくのじかん」より

決まった予定のないお休みの朝に限って心が浮き立ち、つい早く目が覚めてしまったりするものですが、この曲は人生のご褒美というほど美しく晴れたある日の朝、誘われるように森の中を歩いた出来事を歌っています。日々生活の細事に追われ、悩み事で悶々としていても、木々に囲まれ無心に歩くことで徐々に心が軽くなっていくという効用。あ、そういえば、それにちなんで以前にこんな絵本を書いたことがありました。「ハナちゃんの森」です。素敵な絵は小池アミイゴさん。

森の中へ誘われるようにハナちゃんは歩いていき、森深い場所でウタばあちゃんと出会い歌声を聞いたことをきっかけに、ハナちゃんの中にくすぶっていた寂しさに向き合い、それを表出して涙を流すことができたという内容の物語です。

足取りは こころのペースメーカー
今この瞬間 呼吸を整え 生きてる今
くりかえし訪れる 憂鬱には
忘却という処方箋が 味方するだろう
 

アンサリー『はじまりのとき』「かぞくのじかん」より

右、左、右、左と足を動かす。息を吐いたり吸ったりする。そのことにひたすら集中してただ歩き続ける。取り留めなく考えが浮かんでも否定したりせず流れるがままにそれを見つめる。このように歩くことはこころのペースメーカーになっていくようです。心=心臓 ペースメーカー=徐脈性不整脈の治療に使う医療機器、という医療へのオマージュも含んでいます(笑)。

この曲は、実はレコーディングの数年前には出来上がっていた曲で、すでにライブなどでは時々演奏しており、お耳馴染みの方もおられたと思います。元々ラテンのリズムで演奏したくて、ライブなどではビギン(カリブ海のマルティニック島で生まれたダンス音楽)のリズムで演奏していました。こちらがビギンのリズムで演奏している当時のリハーサル模様です。

CD収録のバージョンでは、もう少し陽気な雰囲気で、カリプソやスカのリズムで録音したいと思っていました。そこで、頭にピカリと浮かんだのがLITTLE TEMPOさんでした。ただし、時節とスケジュールの都合でスタジオで一堂に会し録音することが難しかったので、演奏と歌を別々に録音することに。それにあたっての難所は、この曲の冒頭と終わりはルバート(テンポを揺らす奏法)なので、歌の息遣いやタイミングを見ながらの演奏が必須となることでした。そこでLITTLE TEMPOのメンバーでもある小池龍平さんと演奏について綿密に打ち合わせした上で、ルバート部分の揺らし方を含む歌だけを先にアカペラで録音し、それを聴きながらレコーディングするというかなり難易度の高い方法で録音頂きました。小池龍平さんは長年ご一緒に演奏し、この曲の阿吽をしっかり咀嚼されていたからこそ可能な方法でした。

こうして出来上がったテイクは、曲の進行に連れて楽器やリズムの音が増えて賑やかになり、歩くほどに気持ちが軽く前向きになっていくさまが表現されている素晴らしいものでした。数々の災害や今回のパンデミックなど、これまで生きてきた時間の中だけでも、抱えきれないほど悩ましい出来事が多々ありました。ごく普通に食卓を囲んでごく普通に会話し食事をする、そんな何げない日常がどれだけかけがえないものだったのかを思い知らされている今という時代に、ぜひこの曲をみなさんの元へお届けしたかったのです。

にぎやかな食卓 手作り料理
いつの時代も 変わらぬ想い 素朴な暮らし
どうかお願い うばわないで
ささやかながら かけがえない 
かぞくのじかん

アンサリー『はじまりのとき』「かぞくのじかん」より

長い文章にお付き合い頂きありがとうございました。
それではまた次の楽曲解説もお楽しみに♪
さよなら、さよなら、さよなら〜

『はじまりのとき』
#01「かぞくのじかん」
アン・サリー: Vocal
LITTLE TEMPO are
土生“TICO”剛 : Steel Pan
田村玄一 : Pedal Steel Guitar
Seiji Bigbird : Bass
HAKASE : Keyboards
春野高広 : Sax
小池龍平 : Guitar
田鹿健太 : Percussions
大石幸司 : Drums

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