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これは事実か?それとも虚構か?声に導かれるアドベンチャー『第12動画欠番』

ジャンル複合ライティング業者の葛西祝さんが主催しているYouTubeの番組「令和ビデオゲームグラウンドゼロ」(以下、令ビゼロ)がゲームになりました。

「番組がゲームに?」「令ビゼロ?」
いきなり言われてもさっぱりだと思います。

以下のリンクが番組のチャンネルです。
動画をいくつか見てもらえるとわかりますが、令ビゼロではゲームに関する座談会を毎週日曜日にYouTubeLiveで開催しています。
座談会のテーマは第1回「2010年代のベストゲーム」に始まり、「オープンワールドとは?」「未来に伝えるべきリメイクとは?」「イマーシブシムとはいかなるジャンルか?」といった非常に真面目な議論が闊達に行われています。

その令ビゼロの配信にて急遽発表されたのが、今回ご紹介する『第12動画欠番』でした。ボツになってしまった収録回をゲームにしたというのは一体!?何が起きていたのか?令ビゼロリスナーとしては見逃せません!

ついでに申しますと、私が所属しているゲーム好きコミュニティ「game game」のメンバーでもあるSHINJI-coo-K氏やG.Suzuki氏が令ビゼロのメンバーでもあるため、これはプレイしておかねば!と速攻でプレイを開始したわけですが、まぁなんとも変わったゲームだったのです。

以下、ダウンロードリンク(無料です)

予測の声が聞こえる

ゲームは令ビゼロの収録回に参加したゲスト「安嵜公司朗」を操作して進みます。基本的に選択肢を選んで進むテキストアドベンチャーの形式にはなっていますが、本作が少し変わっているのは、天の声とも言うべき予測の声が聞こえて来る点です。

ゲームを進めていると要所で声が聞こえます。
そこではこれから起きること、交わされる会話の内容など安嵜だけに聞こえてくる未来予知です。ただし、この「予測の声」はあくまで予測でしかなく、プレイヤーの選択次第で別の流れを作ることも可能な不思議な存在です。予測の声に逆らって不明瞭な未来を進むも良し、予測に従ってレールの敷かれた道を行くも良しと言うわけです。

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未来予測に沿った言葉を逆らって進めることも可能ですが、逆らい続けると安嵜の精神状態に異常をきたし、座談会の最初の時点まで戻されてしまいます。かといって、未来予測をトレースし続けてもアウト。未来予測をトレースした展開をしつつ、場面によっては少し違う会話の流れを作ることで未来を引き寄せなければループの流れは終わりません。

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予測の声に逆らった場合の異常状態。画面が大変なことになります!

プレイヤーは予測とのバランスを取りつつ、ループを脱するための選択を続けるのがゲームの基本ルールとなります。大半のテキストアドベンチャーがテキストと絵を際立たせるための補足的な存在として音を利用していることを考えると、音と連携したシステムを考案した本作はそれだけでも十分にユニークな存在だと思います。

とはいえ、選択肢をその場その場で予測の声と従ったり従わなかったりをきめていけば良いわけではなく、前後の選択肢が影響しあって会話の流れを生んでいくシステムのため、攻略は一筋縄ではいきません。プレイ中に何度となく最初のループ開始地点まで戻されてしまいました。どこで間違えたのかが分かりにくく、容赦なく戻されるため、繰り返しのプレイが苦痛な人には厳しいと言わざるを得ません。

今までに選択したルートを示すチャートがあれば少しはわかりやすくなったのかもしれません。総当り的に進むにしてもチャートがないと手元にメモりながらの昔のPCゲーム的な楽しみ方になること必至です。

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「この世の果てで恋を唄う少女YU-NO」の分岐図
ここまでとは言わないが、ある程度のチャートは欲しいところ

2020年9月現在、開発元ではプレイした人々からの意見を募っており、ユーザからのフィードバックを参考に今後のアップデートで改善をしていく予定だそうです。アップデート次第では上述のわかりにくさをクリアした快適なプレイフィールになっているかもしれません。
プレイ後に改善の提案をしたい場合は、以下の開発元のホームページやTwitterアカウントからコンタクトをとってみてください。

事実と虚構の曖昧な境界

自分が令ビゼロのリスナーということもありますが、絶妙な本当っぽさが楽しいゲームでもあります。

予測の声の中には安嵜以外の人物の声も混じっていることがありますが、それがリスナーにはお馴染みの葛西祝さんの声だったり、SHINJIさんの声だっったりするのが面白すぎます。配信に使われるソフト「OBS Studio」を模した画面のデザインも影響していますが、交わされる会話や途中で出てくる雑談的な内容までもが「いつもの令ビゼロ」っぽさに溢れております。

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それっぽいどころか、実話も多数・・・
あの時のSHINJIさんは本当に死にそうになっていました
本作の音楽&サウンドも担当!!

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ゲームの中でも苦労人なG.Suzukiさん。いつもお疲れさまです。

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これも実話。詳しくはエースコンバット回をチェック!
果てしないエースコンバット語りを聞け!!

このように、ゲームに登場する多くが現実に存在する人物ないしは出来事なために、虚構(のはず)のゲームで交わされている会話が真実味を帯びてくるのが面白い作品です。

ゲーム語りってなんなのさ?

実在の人物、実話を織り交ぜたこと、普通は聞こえないはずの予測の声の存在で現実との境界が曖昧なメタフィクションを構成している本作が語る内容が「ゲームの未来について」というのも特徴的です。

これまでの番組で様々な角度からゲームについての議論を繰り広げてきた令ビゼロらしいとも言える議題ですが、最初のテーマが「ゲームにおける自由意志とは?」で、いきなり大きく出たなと。

詳しくは実際にゲームをプレイしていただきたいのですが、ゲームには作り手が存在しているものである以上、どんなに自由度が高いとされるゲームであってもシステムの制約から完全に解き放たれたものは無く、必ずデザインされたものになっています。では、プレイヤーには自由意志は存在するのか?未来のゲームにおける「自由度」とは?これが議論のポイントになります。

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どちらを選ぶ?

ゲームにおける自由意志の話題から始まり、議論は「ゲームにおける多様性とポリティカル・コレクトネス」、「香川県ゲーム規制条例」、「ゲームメディアは必要なのか?」「フリーランスの限界」「インタビュー記事は簡単な仕事なのか?」などと、多岐に渡っていきます。最近になってSNSを中心に話題になった話題を多く盛り込んでいることが特徴であり、少なくとも、ゲームにおいては最も早くこれらの話題を取り入れた作品だと思います。

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声が導く未来はどれだ?

単に意見を文章にするのではなく、ゲームにしたことで客観的な視点を獲得できている点も特徴です。ともすれば、フリーランスのライターによる一方的な視点にしかならないところを、プレイヤーが操作する安嵜を交えた対談という形式にしたこと、未来予測の声でプレイヤーを明確に誘導するシステムにしたことによって、ゲームに関する言説を相対化することに成功しています。ゲームを語る行為とは何かがが本作をプレイすることでご理解いただけると思います。

声を聴かせてください

ゲーム批評をさらに批評するようなメタな視点で議論するのをゲームにした、書いている側もよく分からなくなってくるようなメタの累乗的なゲームである本作ですが、最近の話題を扱っていることもあってか、エンディングでは明確な「正解」が示されないのがもどかしくもあります。

もちろん、自分で考えて自分なりの答えを見つけることが一番でしょうが、そう簡単に独力で納得できてしまうのならば誰も苦労しないのであって、そのために議論をすること、意見を交換する行為が重要になるのだと思っています。このゲームは議論のきっかけにはなってくれるはずです。

だから、声を聴かせてください。
皆さんの声を。
未来に導く声を。


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