見出し画像

脂溶性の夢

「やりたい事がたくさんあるのよ」

そう言いながら、彼女は自分のグラスにワインを注いだ。

分かるよ。

僕は答えて、目の前の赤ワインを一口含む。
レ・トゥール・ド・ボーモンの2016。
深いガーネット色が揺れる。

分かるよ。やりたい事を全部ワインに溶かして飲んじゃうんだ、君は。

それを象徴するみたいに、今夜のワインは何にでも合う。
ナッツ、鴨肉、なぜかカキフライにまで。
油はワインに溶けて、のどを滑り降りていく。

君のやりたいこと。
部屋の片づけ、洋画鑑賞、海外留学、いつか翻訳者になる夢…。

1秒でも、そこに近づくことをやれば良いのに。

ワインに溶かして飲みほして。
明日こそは、って君は言う。
僕らは笑う。それでいい。

「だからね、あなたと飲むのは今日が最後」

明日こそは、明日こそはって、
ずっと言ってて欲しかった。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?