0225_磐石な丸み
大きな一枚岩から、石を切り出す。
まっすぐに横と縦に切り込みを入れ、立体長方形のいくつものきれいな石の塊を作っていく。それはとても丁寧な仕事で、なにも間違いのないブロックたちがどんどんと切り出されては積み上げられていた。そんな光景を、いつだったかテレビで見たことがある。
私は無性に、こんな風に生きられるようになりたいと思った。磐石な『私』と言う一枚から、綺麗に整えられたいろんな、けれど全て同じ私を切り出して、それぞれ、方々で活躍したい。やりたいことには全て等しく力を使いたいから、できる限り丁寧に均等に私を1つずつ切り出したいのだ。
「ああ、たしかに君はそう言うタイプだね」
同僚の綾瀬は納得したような顔で言う。彼女の頼んだシナモンロイヤルミルクティーの香りが目に染みている。私はどちらかと言うと、と綾瀬が続けた。
「一枚岩からいろんな形を切り出してほしいかも。ひとつ切り出して、違うなと思えば今度は違う形で切って、それも違うならまた違う形で、使うものも使わないものもあっていいかな。そんなのがいい」
少しずつ、考えながら言う彼女を私はじっと見ていた。彼女は1つしかないのに、そんなにいろんなものが切り出せるだろうかとそう思ったからだが、見ていると、なんだかそれも可能なのだろうと思えた。右上に視線を向けて話す彼女と、たまに伏し目がちに笑う彼女と、なぜか妙にドヤ顔を見せる彼女と、それら全て違う彼女のようだった。でもそれは紛れもなく全て彼女である。人には色々な顔があることくらい分かるのに、私は少し胸の奥がぐぅっと何かに押されるように思えて、嫌だった。多分、私にはたった1つしか形がないのに彼女はそんなに多くの形を切り出すことができるのかと思うと、私はとてもちっぽけに思えた。
「綾瀬はいろんな形ができるだろうね。でもそうなったら、私たち、隣り合わせることはないのだろうか」
いやらしい言い方をしたなと、我ながら思うが、一度口からでた言葉は消せない。綾瀬は少し考えて、小さく笑った。
「多分、いろんな形がある中には長方形で切り出される石もあるんだよ。それがきっと君と並ぶことができたんだろうね」
そう言って、奇跡みたいなものだねとまた笑った。
私もつられて少し笑えた。多分、今、私を切り出せば、少しくらいは角の丸くなった長方形ができるんじゃないかなと思う。長方形にもきっといくらか種類があるだろうから。
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