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0115_リュック

「漬け物石でも入っているの?」
 土崎が言うので思わず、入っていたっけなぁと、リュックの中身を思い浮かべてみる。
 私のリュックは重い。相当、いや過分に重いのだろう、誰に持たせても重いと言われてしまうのだった。私自身は必要だと思うものを入れているのでそれに対して重すぎるとは思っていない。
「漬け物石は入っていないけど・・・・・・」
 私はリュックの中身を掘り起こしながら口を開いた。片手にリュックを持ってもう一方で探っているのだが、なるほど確かに少し重い気もする。少しして、腕がじぃんとするのを感じる。指先にツンと目当てのものが触れた。
「小さめの鉱物ならあるよ」
 土崎は驚いたのか僅かに胸を反らせて眉間にシワを作った。
「たかだか仕事にいくだけなのになぜに鉱物が必要なんだ」
 そう言いつつも、ちょっと見せてとその石を手にした。薄いむらさきと白、それに光沢のある黒が綺麗にグラデーションされている石。
「まぁ、好きだからだよねぇ」
 私は彼が手に持ったアメジストのそれをいつもながら綺麗だなぁと思って答える。「他には?」また彼が聞く。私はふうと息を吐き、近くの椅子にリュックを置いた。腰を下ろすのではなく、リュックを下ろすのだ。
「そうだなぁ、単行本が2冊とコンパクトノートが2冊、手帳に、文庫本も2冊。あとはPCと身だしなみ用品もろもろかなぁ」
 中身を落とさないように取り出してはしまうを繰り返した。時々、土崎がいくつか手にとってチラリと見てまたリュックに戻す。私は、本が4冊も入っていればそりゃ重いよなと気づく。一方で、でもなぁと思う。
「中身が多くなりがちな人間なのは自覚しているから、全部小さなものにしているんだけどなぁ」
 小さなものばかりだからそんなに重くないはずだと不思議に思う。
「いやいや、文庫本も2冊あれば単行本に近いだろうし、コンパクトノートだって、2冊持つなら普通のサイズ1冊でも良いだろうよ」
「ああ、そうだね、うん、確かに」
 言われてみればそうだなと思うのだが、リュックの中身の一つ一つを見ると困ってしまう。
「全部、私が今、持っていたい大好きなものなんだよなぁ」
 そう呟くように私が言うと、土崎は大きく笑った。
「好きなものばかり詰め込んだリュックとか、それは幸せ以外のなにものでもないな。よし、減らさなくていい!」
 あまりに快活に笑ってくれるので、私はうっかり土崎をリュックに詰め込もうとして、彼の手に触れた。


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