0520_両足で飛ぶ
右足から踏み出すところを左足で踏み出してしまった。
私は悲しくて泣いた。
望んでいたわけではないのに。そう思って、泣いた。でも、よく考えてみればと、少ししてすぐに泣き止んだ。私は別に右足から踏み出そうと思っていた訳ではなかったのではないか。そう思い出し、顔を上げた。空はまだ明るく、それでいて高かった。それだけを救いに感じている。
私は別に右足から踏み出すことを希望して最初に踏み出したわけではなかった。外出する前、私はハンカチとティッシュを持つことや鍵を閉めることスマホを持つことを決めていた。それに戸締まりやら、電気を消すことも加えると相当にある。それらの締めくくりが、右足から踏み出すことだった。玄関のドアを閉めて、右足で自宅にもっとも近い外の地面を踏み、家を出ると意思を強く示すのだ。これらは結果である。決め事を終えたあと最初にしたのが右足で前に出ることだった。たまたまだ。
でも私はその、たまたまをずっと正しいと思って生きてきた。
右足から踏み出して外に出ることが、それまでに行って来た私の全てを肯定しているとさえ思っているのだった。
それが例え、私から望んだものではなくても。
それが例え、たまたまの偶然であったとしても。
私はそれに支えられてきたのだ。
だから、左足で踏み出した今日、私はこれまで築き上げてきた全てがここにくずれたような気がしてならないのである。
悲しいかな。私は泣いた。
着実に積み上げてきたのに。その中身がなにかだなんて気にもしていないけれど、流れるままに積んだのに。
私は地団駄を踏み、たまたまも、意思の強さも間違えた悲しさも踏み潰した。
仕方がないから、私はこれからをようやっと今、意思をもって選ぶこととする。
私は両足を揃えて膝を曲げた。ゆっくりとその場でタメを作り、心のなかで「せーの」などと言って、大きく飛んだ。
私は右足と左足の両足でもって踏み出すのだ。
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