0425_骨を折る
ポキリ、と小気味良い音を立てたのは私の右足だった。
なんということはない、細い、けれどそれなりに固い木の枝を踏んだだけである。骨ではない。それだけ、ただそれだけなのに、私の目が覚めた。
私、本当は何がしたかったんだっけ。
視線の行き先は変えず、私はまっすぐにそう思う。ああ、そうだ。小学校の先生になりたかったのだ。子供が好きで、例えば保育園や幼稚園でも良い。時には厳しいことも言うけれど、それぞれの親と同じように、私もその子どもたちを愛してみたかった。
今の私の人生は、それとは全く関係ないなぁと思う。
そりゃそうだ。
私は『なりたいものや人』を意識して就職なんてしなかった。ただ、『何かの仕事をして働く』場所でしか会社を認識せず、就職はそれに準じた。結果、接したかった子供はここにいない。
私は今やっと『生きる上でいかに仕事の比率が高いか』を実感し始めた。それは心と体、両方の比率。
仕事って、結構、重要かもしれん。
私の考えが甘かったのは事実だ。でも、少なくとも当時の私はそれでも大丈夫だと思っていた。仕事は仕事で頑張れるし、趣味や好きなことは目一杯休日に楽しむことができれば、充分バランスが取れていた。今だって、そう言う考えももちろんあると思っている。そう考えられるならこのまま仕事を続ければよいだけだから、なんだったらそれで快適だろう。
でも、なぜだかわからないけれど、我慢ができなくなった。私、多分わがままになっている。
「仕事なんだから楽しいとか好きだけじゃないのは当たり前でしょ。好きな仕事をするんじゃなくて、自分が仕事を好きになるんだよ」
まぁ一回はみんな通る道よねー、とでも言いそうな顔で先輩が笑った。
ポキリ、とまた枝が折れた音がする。
一回通ろうが、それが普通だろうが、我慢できなくなっている事実がここにある。もしかしたら、何かの術にでもかかっていてそれが解けたらまた昔のようにこんなこと別になんということも無いと思えて変わらず仕事ができるのかもしれないけれど、ポキリと枝は折れたのだった。
今から私がやりたいと思えることを探す、それに夢中になれるものを探す、探したとして、その仕事につけるのか分からない。どれほど大変かも分からない。
それでもいいなぁと思った。
折れたのは枝だったのだから、今度は私の骨くらい折ってやろうと思う。そうして、笑ってみたいと思う。
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