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0713_おはよう

 うっすらと明るくなった空の時間に起きた。ぼんやりと目を開けて、ああ朝になったのだと思って、その緩やかな光の中でゴロゴロとしている。
 あと少しで起きる時間だと思いながら、私はもう一度目を閉じてみたり、手足を伸ばしてひんやりとしている触れていない布地に触れてみたりする。未開発な部分に触れては触り心地を確認し、その間にさっき触れた部分がまた冷たくなるのでまたそこに手足を伸ばす。広く自由な気がして心地が良い。

 私はこんな時、大体、高校時代を思い出すのだった。

 別に充実した明るい高校時代を過ごしていたわけではない。どちらかというと、どんよりと暗い日々だったと記憶している。記憶しているだけで、普段はそれを呼び起こしたりなどしないので思い出でもなんでもない。
 誰かになにかされたわけでも、なにをしたわけでもない日々が、私にはとてつもなく重苦しく感じた。青春と思春期と自我の覚醒だったのだろう、生きることが少々困難に思えていた。人を好きになることや自分を蔑むこと、世の中がくだらなく思えて、生きる必要性が分からなくなった。それはそれまでの学生時代にも、その後の学生時代、社会人の今に至るまで、似た気持ちはあっても、あの頃と同じほど強い気持ちにはなったことはない。あとにも先にも高校時代だけだった。だからきっと色々な後悔がいつも渦巻いていて、何年経ってもいつでもすぐに思い出せるのだろう。

 あの頃も今も、起き抜けの部屋の中で見る朝の色は同じだからだ。

 眠ることは唯一の救いだった。
 眠っている間には何も間違いは犯さない。その上、体も回復するという。睡眠こそ正義は確かだ。
 でも当時は正義を信じなかったから、眠ることは損だと思っていた。だから、体も心も健やかではなかったのだろうと、今になってようやくわかる。

 今は、極力眠る。

 眠って、自然に起きて、その余韻を貪る。それが、私のためにできることだから。 

 私は起きている。しっかり眠って、起きている。高校時代の私は起きていたのにいつだって眠っていた。

 起きて。
 
 起きて、緩やかな朝に甘い幸福を感じて。

 なんとか、生きていけるから。

 そんなことをあの頃の私に伝えて。

 私にはまた、冷たくなった布団の端っこに手足を広げてそのまま伸びをする。微笑み、布団から出た。

 おはよう、私。
 

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