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0725_私の、私は

 なにが君の幸せ♪何をして喜ぶ♪

 山口くんとテレビを見ていたなんのことはない休日。私も山口くんも土日に仕事があるので、こうして平日に休みを一緒にすることもシフト調整で可能となる。週に1日だけ、2人で平日休みを合わせている。そのある日が今日。
 なにも、どこにも行かずに、朝から2人でだらだらしていた。起きて朝食を食べ、テレビを見て生産性のまるでない会話をして、時々キスをした。そんなことだから、テレビでさえもしっかり選んで見るようなことはなく、つけっぱなしにしていたら、国民的アニメの放送が始まった。
 そして冒頭の曲が流れる。

「意外とロマンチストなんだな」

 朝食なのか昼食なのかわからない時間にメロンパンを食べながら山口くんが言った。私もメロンパンを頬張りながら適当に答える。

「じゃあ、山口くんは答えられる?その質問に」

 注釈とするが、別にアニメの彼は質問などしていないだろう。『自分の幸せや喜びが答えられる自分でいたい』もしくはそういう人生でありたい、という自身のありたい姿なのだろう。
 しかし思いの外、山口君は真剣に考えてしまった。

「ちょっと時間ちょうだい」

 山口くんはそういうと、自分の食べたあとの皿とコップをキッチンに下げ、食器洗い機に丁寧に入れた。こういうところが好き。

 で、どこかに出掛けていった。

 私はなにかしでかしただろうか。
 いや、単なる純粋な疑問を投げただけだし、そもそも私は答えられない。そんなに真剣にこの問いを考えたことがないから。
 これはそんなに真剣に考える歌だったのか。私も食器を下げながら、少し考えてしまう。何が幸せで何が喜びかなんて、幸せな時が私の幸せで、嬉しいときが私の喜びである。このとき、これならば!というものはない。と、私は思っている。美味しいご飯を食べた時は幸せであり、わりと大きめの仕事が評価されたときは喜ぶ。その時々で違う。

 私の答えなどこんなものだった。
 これの他にすることは特になく、私はやっぱりテレビを垂れ流しながらせっせと趣味の折り紙を折る。これも、私の幸せであり喜びだなとふと思う。

 夕方になって、やっと山口くんが帰宅した。
 手には小さな箱がある。玄関を開けるなり、私を呼んだ。

「ちゃんと考えたらさ、俺が喜ぶ時と、幸せだと思うときって、聖奈がいるんだよね。いつも」

 聖奈は私で、私は小さく頷いた。

「これからも変わらないんだろうなと思ったら堪らなく嬉しくなって」

 そう言って、山口くんは小さな箱を取り出した。

「俺と、このままずっと一緒にいてください。結婚しよう」

 小さな箱の中からキラキラと光が輝き、私は自然、「はい」と答えていた。

 あの正義の味方はこんなことまでアシストしてくれるのかと驚きつつ、私の中で山口くんにプロポーズされたことに喜びがあることにも驚いた。

 多分、これも私の幸せであり喜びなのだろう。

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