0618_雨が上がって
雨が降っているので、濡れていいこととします。
濡れていいこととするので、泣いてもいいこととします。
泣いていいこととしますので、鼻水がつーっと垂れてもいいこととします。
そう思うと、雨の日も存外悪くはないなと思うのです。何も起こっていなくても、ただ生きているだけでどうにも胸が苦しくなったり、無性に泣き叫びたくなることがあります。そんな日に晴れていたならそれはとても残念であります。泣きたいと思っても、その暖かな晴れ間に私はきっと目を伏せて涙をひっそり落とすことでしょう。泣くことに集中するには晴れの日は向かないのです。
電車の中が蒸気やなんかでモワモワと窓が白くなる、そんな風に、じっとりと雨が降っているのでした。駅について、外に出たらば泣いてやろうと思っています。あなたを思って泣き、あなたを想う私を思って泣き、どうにもできない現実に憂い、なぜ生きなくてはならないのかと絶望し、泣いて嗚咽してやろうと思っています。
電車を降り、私が改札に向かうと、ドドドと同じように足早に向かう人々がいます。皆、何か涙を抑えておるのでしょうか。不思議に眺めると、さっきまで込み上げていた涙たちがゆっくりと引き下がるような感覚がありました。このままでは思い切り泣けないではないかと、ふつふつと怒りさえ沸いてきました。周りの彼らの速度を超えて早足を進むと、途端に息が弾み、ハッハッと短く息を吐く。涙を堪えて息を吐く。
そうして、駅の外に出たならば、雨上がりの空が私を迎える。雨など一つたりとも降ってはいなかったのです。湿り気のある空気がキラキラと輝き、雨に濡れた道道には水滴が揺れている。私は息を細く吸っては吐き、呼吸を整えた。濡れた草木の匂いがする。早くも空気中の水分がじわじわ蒸発しているようで、空気が上がっていくのを感じている。
私は泣かず、ただ、歩くことにした。
雨が止んでいるので、私はただ、歩くことにしたのです。
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