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0130_そこに誰もいないのならば


どうか、君には生きてほしい。
見ず知らずの僕にこんなことを言われても、何も響かないかもしれない。
それでもいいよ。それでいいから、ただ、君には生きていてほしい。
今は、目の前が暗く、深く、息をすることも辛いものだろう。とても辛いね。それはきっと君にしか分からない苦しみだろう。僕には計り知れないよ。だから、僕は僕の苦しみをほんの少し話すね。聞いていてくれると嬉しい。
僕も、とてつもなく悲しい出来事があった。そのときは味方もいないし、打開策も見当たらなくて、もう行き止まりだったと思う。今が暗闇なのに、先を考えてもまた暗闇だから、もう全てが嫌になったんだ。程度は違えど、君も少しこんな風に似ているのではないだろうか。
それから僕は、少しだけ目を瞑ることにした。耳を塞ぐことにした。口を塞いで静かに息をした。そうしてしばらくして、また、目を開くんだ。するとそこには、輝かしいほどの陽の光があったんだ。
何が変わった訳でなくても僕は今、ここで生きている。
君のこれまでの世界が一瞬で変わったように、これからもきっと一瞬で変わる。暗闇だったなら太陽の光にだってなるだろう。だからね、どうか君にもこのまま一緒に生きていてほしい。君には生きていてほしいんだ。

もしもそこに誰もいないというのなら、僕と一緒に目を瞑ろう。僕と一緒に耳を塞ごう。僕と一緒に口を塞ぎ、静かに息をしよう。
そうして僕と一緒にまた目を開けよう。
僕と一緒に生きよう。
生きる理由が必要ならば、僕のために生きて。
生きる希望が必要ならば、旅にでもでよう。

だからやっぱり生きていて欲しい。
辛いよね、悲しいよね、しんどいよね、疲れたよね、暗いし、寂しいよね。
だから、僕と共に生きよう。

見ず知らずの僕にこんなことを言われたところで何も響かないかもしれない。
それでもいいよ。
それでいいから、ただ、君には生きていてほしい。

見ず知らずの僕は、見ず知らずの君に生きていて欲しいと思う。

何度でも言うよ。
僕は、君に生きていて欲しい。
なんだって、どうだっていいから、生きていて欲しい。

もしもそこに誰もいないと言うのなら、僕がいる。
どうか、ね、生きて。

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★著者:あにぃ

※誰も私をわかってくれない、私には誰もいないと思う人には、架空でも仮でも妄想でもいいから、『見ず知らずの僕』がいることをどうか思い出してほしいのです。

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