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0207_ターコイズブルー

 男がこんなにも綺麗な涙を流すものかと、私は驚いた。

 冬の寒い日で、やたらと混雑している改札を抜けて、3番線のホームに上がるため、階段に向かう。
 一段目で立ち止まっている男性がいるのに気づいた。他の乗客が付近で溢れる中、私の視線は完全に彼で止まった。階段を上がる群れを抜け、静かに階段の端へ寄る。妙に、彼のことが気になったのだ。ざわざわと通勤ラッシュの人々がそこここで行き交う。彼の姿が見えたり見えなかったり、私はそれでも視線を離さなかった。人々が吸っては吐く息で、白いモヤのような視界になるも、やっぱり私は視線を離さないでいた。
 凛と、彼はその場に真っすぐ立っていた。右手にスマホを持ち、左手には何か布地がある。ふと、彼が口元にそれを持っていく。ハンカチだろう。ここから見るにターコイズブルーの鮮やかな青がそこに映えていた。具合が悪いのかと思うが、姿勢からそうとは思えない。ただ口元にターコイズブルーのハンカチを充ててまた、しばらく立っている。
 3分ほどが経ったか。彼は涙を流していた。
 私は、こんなに綺麗な男の涙を見たことがなかった。
 『綺麗な男』の涙なのか、綺麗な『男の涙』なのかは分からないけれど、私はそれに魅了されたのだった。恋に落ちたと言っても間違いではないかもしれない。なぜこの雑踏の階段下で端に寄るでもなく、真っすぐに立ち、ターコイズブルーのハンカチで口元を覆っては涙を流すのか。その隠した口元は笑っているのか、悲しみを噛み締めているのか、それとも。そんなふうに、私が彼を見つめていると、彼は、踵を返し、改札に向かった。私も後を追いかけねばと思うと同時に、なぜかと疑問が湧いた。なぜ、私は彼を追いかけるのか。
 瞬間、彼が口元を露わにした。
 にぃ、と綺麗な口元で唇を横に広げている。
 私はそれに見惚れて、結局足が止まった。人の波が一層増えてきて、私は端からよろよろと押し出された。横を行く学生たちが大きめの小声で話している。

「人身事故だって。突き落とされたらしいよ」

 私は、ターコイズブルーが忘れられない。

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★著者:あにぃ

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