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0320_行く宛のない旅とその答え

 券売機に並び、私は小銭を入れる。定期券は使わない。久々に、切符を買った。電工掲示板を見ると、次の電車は8分後にくるらしい。改札を通り、自動販売機で温かいミルクティー缶を買って、私は2番線のホームに向かった。
 週の半ばの休日。それだけで非日常感があるように思えた。ホームには家族連れや友人同士、一人でいる人などいろんな人が見られる。スーツの人はほとんどいなかった。幸いにも天気は良く晴れている。さわさわと吹く風が、温かいミルクティーをゆっくりと冷ましていく。私はそれを頬に当て、心地よいぬるさを感じてから蓋を開けた。一口飲むと甘ったるいそれが口の中を満たした。
 私はこれから行く宛を決めずに旅に出る。

 何がしたいのか分からないけれど、この仕事ではない。
 私以外のこの場にいる人々は皆、この仕事をしたいと思ってしているのだろうか。したいことが今の仕事ではなくても、少なくともこの場所であれば希望する仕事に近いなにかができるからここにいるのだろうか。

 ここ数年ずっと同じようなことを考えている。そして近しい友人に同じようなことを問うてみても欲しい答えが見つからないのだ。

「そこは割りきるしかないよ」
「お金も貰っているんだから当たり前だよ」
「仕事は好き嫌いじゃないよ」
「考えが甘い」
「大体みんな同じようなことで悩んでいるよ」

 仕方ない、我慢して頑張る、みんな一緒。それが大勢なのだろうか。でも私は・・・・・・と口に出るのを押さえることにも慣れてしまった。私は密かに孤独を感じた。
 私は、私がこの仕事について働く理由と情熱が欲しいのだった。よく考えればそんなもの、至極個人的なものであり、これを他人に聞いてもわかるわけがないのだった。

 私の乗る電車がくるまであと3分となる頃、アナウンスが響く。
「快速電車が通過します」
 私は言われるままに黄色い線の内側に下がって電車を見ていた。ゴォッと言う風と走行音が混ざった強い音に思わず耳を塞ぐ。勢い、目をつむりそうになるその時、走り抜ける電車の後方の窓から向かいのホームにある看板が途切れ途切れに見えた。

『やりきったあとに見えるものがある。話はそれからだ』

 電車が目の前を通りすぎたあと、私の目にしっかりと見えたそれは、アニメなのか漫画なのかその広告看板のようだった。私はそれを見て、どこかすーっと私の中から何者か分からない何かが抜けるのを感じた。

 私の乗る電車が到着し、となりの家族や後ろにいる一人、少し先にいる夫婦らと共に電車に乗った。

 私はこれから行く宛のない旅にでる。
 でも、もう答えは決まっている。

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