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0428_振り向けば

 後ろを振り向くと、誰もいなかった。
 例えばそれは『後ろの正面だあれ』なのかもしれないし、『だるまさんがころんだ』なのかもしれない。
 振り向けば、誰かはいるはずなのだ。それが一人なのか大勢なのかは分からないけれど、少なくとも誰かはいるはずだった。

 でも、そこに誰もいなかった。

 私は降り向いたまま、硬直し、けれど涙が落ちた。
 私の歩んだ道に、誰もいないのか。そう思うと、もうどこにも歩けないし、悲しくなって泣いた。

 私は一体何をしてきたのだろう。
 四十年あまりの時間、どのように過ごして、どこを向いて歩んできただろうか。そこには時に手をつないだものもいたはずだが、その人たちとはどこで別れただろう。

 こぼれた涙が、私の手の甲に落ちる。熱い涙である。

 私はよく考えることにした。
 私の歩んできた道は万人の正解ではないかもしれないけれど、少なくともその時々で私の中の正しい私が下した決断の連続が今であり、私にとっては『正』だったのである。胸を張ることも、驕ることもしないけれど、私は私の中で誇りに思おう。

 熱い涙が落ちたのは、私がこれまでに熱を持って生きてきた証拠であるし、それがこぼれるのは、私の正解があったからこそである。

 私は、私の中で正しい。
 私は、これでいい。

 そう、涙を拭いかけた時、ふと気づく。
 私が参加していたのは、もしかしたら、だるまさんがころんだではなかったかもしれない。
 後ろの正面だあれでもないかもしれない。

 私は思い至り、慌てて駆けた。
 公園の草の根を掻き分けると、一人いた。
 木の幹の裏にも一人いた。

 私は全ての人に「見つけた」と言う。
 皆、笑ってくれた。

 私の歩んできた道は一本道で、振り返れば確かに誰もいない。けれど、その時々で曲がった道を覗くとそこには私に手をさしのべてくれる人がいるのだった。

 顔を上げると、目の前にはまだ道が続いていた。もう一度だけ、振り向いてみようかと思ったが止めておいた。

 涙を拭う。
 熱い涙は、地に落ちてもまだ熱い。

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