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0204_10年遅れ(前編)

※今回、前編後編でUPします。
 本日は前編、明日は後編です。

「色んなことが10年遅れているんだよ」
 20代のころ、友達と遊び半分でかかった占い師に言われたことを思い出した。日曜日の朝9時のまだ布団の中。同居人の保坂はすでに起きているようで、となりの布団を見てもカラである。私は時計を見て、もう一度目を閉じた。
 こんなに遅くまで眠るつもりはなかった。早めに起きてやりたいことはたくさんあったし、そのときに頭の中も整理しようと思っていたから、頭の中はごちゃごちゃなままだ。とてつもなく嫌な気分での起床となっていた。なぜ、ここであの占い師の言葉が出てきたのだろう。それは、起きるか起きないかの意識も朧な一瞬だった。ふと、頭の中に浮かんで消えた。仕方がないのでその前後の記憶を思い返して補完してみることにした。
 色んなことが10年遅れていると、占い師の彼は言った。私は当時25歳くらい。社会人になり、少しずつ仕事に慣れてきたときだったと思い出す。職場環境は快適で同僚にも恵まれてそこそこ楽しい毎日だった。それは幸運ではあるが妥当な25歳の日々だと思えた。だから占い師には、例えば何が10年遅れているのかと聞いた。
「そうですね、例えば、青春とか」
 青春!私はそう言われて即座に納得した。なるほど、である。25歳の頃の10年前は15歳であり、高校生、青春、ど真ん中だ。私は、その年の頃はとても暗い思い出しかなく、およそ青春と言える記憶など一つもない。25歳の当時、10年遅れて、今、青春していると言われたことに至極納得し、幸福だと思えた。
 以降、度々占い師の彼を探したが、見当たらず、結局占ってもらったのはただの一度きりだった。けれど、私にとって確かにインパクトある占い結果だった。

 10年遅れているというのはいつまでそうなのだろうか。例えばまだそれが有効だとして、今、私は何を10年遅れで経験しているのだろう。もしくは10年遅れで私は何が身に付いていないのだろう。私はようやく布団から這い出て、その場を整えるとぼんやり考えながらリビングに向かう。
「おはよう」
 保坂が言い、コーヒーをくれた。
「おはよう。眠りすぎたね、私」
「そう?そんな日があっても良いと思うよ」
 ふふふ、と優しく笑って私のとなりに保坂は座った。彼は、自然に寄り添ってくれるのがとても上手い。
「さて」
 彼は小さく呟く。私は彼が入れてくれたホットカフェラテに口をつけてその熱さを冷ましていた。ふーふーと聞こえない声の隙間に、彼の声が入る。
「僕と結婚しませんか」
 

       続 ー明日18時にUPしますー

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18時からの純文学
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★著者:あにぃ

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