0413_自然に
朝に入れたカフェオレは冷たくなっている。当たり前だけれど、それを入れた朝ではないから、時間が経って冷たくなったのだ。私はそれをそのまま、一口飲んでみた。冷たいなぁと思いながら、いつもの癖なのか、カップに手を添える。手を、暖めようとしている。暖まらないことにすぐに気づいて、添えた手を外した。
私は、私のなかにいくつかの決まりきった私がいることに気づき、なんだか妙に気持ちが悪く感じた。
カップの中のカフェオレを捨て、新たに淹れ直すことにする。カプセルをセットして淹れるのだが、どのコーヒーにしようかとカプセルを見る。ああ、これには決まった私がまだいないのか。私はノンカフェインのコーヒーを選んでセットする。この間に牛乳を温めておく。少しの砂糖を入れて。ミルクパンにコポコポと少ない牛乳を入れて小さな火にかけた。ガスに火がつくそれまでの『チッチッチッ』と言う音が好き。そしてまたふと気づく。私、火が着いてからもしばらくは『チッチッチッ』と頭のなかで続けている。何かの音でも、誰の声でもない、明らかに私の頭の中で創造された音が続くのだ。まるで、心を静めるように、それが当たり前のように。
ここにも、決まりきった私がいる。
私の中にはそれぞれ役割のあるいろんな私がいて、そのいろんな私たちで構成されているようだ。なんだか急におかしく思えてきて一人で笑った。
そのあとで少し泣いた。
決まりきった私のなかに、『自然と幸せを感じる』私はいない。よく考えれば、今、私がここにいるその事実が幸福以外何物でもないはずなのに、私はいつでも『自然と幸せを感じる』ことがない。
私がここにいること、コポポとコーヒーが香りを立ててカップに落ちること、ミルクパンの中で牛乳が温まり、薄い膜を張ること、それをスプーンで掬って落ちていくコーヒーに潜らせて口に含むこと、くにゅっと言う食感、その全て。私の幸福。
決まりきって意識もしなくなってしまっただけなのか、はたまた幸福が隠れているのか。いずれにしても私は意識してそれを感じる必要がある。
いつかそう感じることが私の中の決まりきった私になってくれるようにいつだって意識しよう。
私は淹れたてのコーヒーに熱い牛乳を注ぐ。
手のひらを添えて、丁寧に暖めた。
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★著者:あにぃ