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0813_息を詰める

 思い切り息を吸って、吐いて、また吸って、息を止めた。目も閉じて、動きを止め、耳を塞ぐ。

 世界が遮断された。

 私はここにいて、間違いなく存在しているし、生きている。でも、ぷっつりと、光と音が消え、私がいなくなる。私がいるのにいない。不思議で心地良く、私は時々、思い立ってその場でそうしている。

「聞こえてるでしょ」

 私の部屋で、お気に入りのソファに座ったままで、私はいつもそうするようにしてまたそうした。世界はやっぱり遮断されたのに、私の瞼の裏にはそいつがいていつまでも消えないのだった。

「聞こえているでしょ」
「聞こえないよ」
「聞こえている証拠じゃないの」

 私は思わず耳を塞いでいた手を外してシワの寄った眉間をほぐすように触れた。「わっ!」と耳元で声がして耳の奥にまで入っていった。それは驚くよりも不快でしかなく、私はなおも眉間のシワをほぐしていた。私がグイとシワを伸ばすその度に、そいつは「わっ!」と音を発する。それが誰かも分からず、私はグイグイとシワを伸ばす。
 放っておいて、放っておいて。
 そうやって念じながらそいつを無視している。

 やがて、音がなくなった。
 私を驚かす声も、煩わしい問答を求める声も、何もなくなった。

 私は少しだけ怖くなり、目を開けた。

 そいつが、笑って見ていた。

 慌てて目を閉じると、「わっ!」と言う。目を開けると。そいつがいる。
 ああ、これはもうだめだ。
 私は涙しながら「わっ!」と叫んだ。目を開いて耳を澄まし、息を吐く。

 そいつはいなくなり、私はシワのない眉間に触れて、泣いた。

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