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0602_好きの総量

「好きなものでも、思うだけたくさん集めたら、好きが薄くなるよ」

 1か月前の日曜日のこと。高校の同級生4人組で月に一度、定期的に会っていて、その日も集まった。私が、可愛い!好き!と思うと安価なものであれば買ってしまうと言う話をしたら、斜め向かいに座っていた安田が言った。安価な好きなもの、というのは例えばガチャガチャの景品や、100円均一で見つけたむかし好きだったキャラクター文具、お菓子のおまけなど。

「好きなもの、となると用途なんかは関係なく私の手元にあって欲しいって思ってしまうんだよね」

 私はまだ熱いロイヤルミルクティーを飲みながら苦笑いを浮かべる。意識的である。そして続ける。

「程度がどうであれ、好きなものが増えれば増えるだけ囲まれる好きが多くなるからいいと思ったんだけどなぁ」

 安田はなにか少しだけ困ったような顔で笑うと、アイスコーヒーの氷をストローでカラカラ揺らす。

「好きのMAXが100だとしてさ、小さな好きを数多くしていくと1つあたりの好きが小さくなるでしょ」

 言われて、ああ、そう言うことかと少し納得した。納得はしたけれど、共感はできないなぁとも思う。

『好きにMAXがあるとは思わないから多ければ多いほど好きの総量は増えると思っている』

 なんてことを口に出すほど私は強くもなければ、わざわざ波風をたてる必要もないしと「確かにー」とか言ってその場を終えた。私のとなりに座る荒野と真ん前にいる吉見は、取り立てて何かをコメントすることなく笑っていた。

 毎月、こんな感じ。
 今月もまた、と予定していたのだが、さっき連絡が入った。別の用事が入ってしまい当分は会えない。安田からだった。少しして、荒野と吉見もじゃあまた落ち着いたら会おうねと返信して最後はスタンプでチャット上の話を終えた。私もひとまず、『OK』とスタンプ押して画面をオフにした。

 安田の好きが、他のなにかで埋まってしまったのだろうなと、先月を思い出しながら私は不意に考えている。荒野と吉見にはそもそもこの集まりのカテゴリは何だっただろうか。人の考えていることなどどう頑張ったところでわからないから考えても仕方のないことを、私は日曜午後にずっと考えていた。

 単に用事が出来て忙しくなったからまたね、なだけだろうけど。それでこんなに推測されては迷惑な話だろうけれど。、私は何となく考え続けている。

 他人ではなく、自分のことであればわかることがあった。好きの総量を増やし続けることは出来ても、そのうちのひとつがなくなってしまえば元々の好きの総量が減り、代わりに寂しさが入り込む。安田の言う、好きのMAX100に決めておけば差し替えも割に容易となり寂しさが入り込むこともないのかもしれないなと思う。
 私は、引き出しにあるガチャガチャで集めたひとつをゴミ箱に入れた。

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