見出し画像

素人童貞とのファンミーティング




以前書いた会社の素人童貞との飲み会が行われた。


彼の名前は今後「まさお」と記載しようと思う。
(理由は前回を参照)


まさおの後輩女性の取り計らいにより

もう会う予定はなかった私達に

飲み会がセッティングされた。

会社の他の女の子には

「まさおに会うよ〜ファンミーティング。」
「あいつは私の、ファンなので」

等と伝えていた。
でもこれは完全なるファンミーティングで正しいと思う。


後輩の女の子は、
私に声をかけてくれた数日後に会うと


「まさおさん、凄く喜んでました!
○○さん(私の苗字)飲み会OKしてくれましたよって言ったら
"本当ですか?"って言ってました!」


と目をキラキラさせて私に教えてくれた。


「別に、誘われれば全然会うし
結構仲良かったと思っていたけど
誘ったらOKするのは意外だったのか?

と少し驚いた。


「二人で会ったらいいんじゃないんですか?
って言ったんですけど、、」


とその子が続けて言うので


「それは嫌!」と即答すると


「あっ、そうなんですね笑
まさおさんも"二人は無理"って言ってました」


と言われた。



二人は無理?!

まあ、、、、
彼の人生経験的に、無理そうではある。




そんなこんなであっという間にその日になった。


当日もその後輩の女の子は丁寧で


少し残業をしている私に
「先に入ってます!」と連絡をくれた。

「まさおさん、すごく楽しみにしてますよ!」


とも連絡が来たので



このまま、バックレるかドタキャンしたら
びっくりするかな?♪


と一瞬悪魔になってしまいそうになったが(小悪魔ではなく悪魔)

流石に他の人にも迷惑をかけるのでちゃんと行った。



その日はもう一人参加者が増えていた。

前にも書いた、まさおの後輩の男の子だ。

以前飲み会で酔ったまさおがクレーンゲームをやりたがり
1時間も2時間もやりつづけるので
私はその後輩の男の子と
白目を剥いてそれが終わるのを待っていたのだ。


ゲーセンの後は場所を変えて居酒屋に入り
終電を逃してしまった私たちは
3人で飲んでいたのだが

まさおはいつも通り下ネタの話を始めた。
私も下ネタは得意な方なので
話を聞きながら過ごしていると

いつも通りまさおの風俗店通いの話や
素人童貞である件の話になった。

まさおとのこういった会話は本当に生産性がなく
いつも同じようなエピソードを聞かされる。

「1回あの時卒業できそうだった」
という、クラブで会った女性との話や

風俗店で好みのプレイをしてもらった時の話

会社の人と二人でお相手してもらった時の話等



本当に「なんでそれ恥ずかしくないの」
と思うくらい自分の性事情を話してくる


私も最初は聞いているが
同じことしか言わないので飽きはじめ
いつも「もういいよ」と話を変える。

「お前の話はずっと再放送
しかも展開が増えていないし、元々話数も少ない
1〜5話をずっと見させられてる」



とキレると、
「再放送!笑」と私の例え話にまさおは嬉しそうに笑う。



その日も何度目かの再放送に飽きてしまったので

思わず横にいるまさおの後輩男性に


「ちなみに○○さんは、玄人童貞ですか?♪」

と、少しこの人の話も聞き出そうと話をふると


急に後輩はかしこまり、

少しニヤッとしながら手を自分の膝に置き

「いえ、自分はガチ童貞です。」

と私の目を見てキッパリと言った。



予想していなかった回答と
自分のデリカシーの無さに焦った私は


「あ、そうなんだ!」

と勤めて明るい返事を心がけ、その言葉を捻り出した。

そしてさらに言葉に迷い

「じゃあ、これから楽しみだね〜!?」


と溌剌と言った。


そして

「私は、、、終電を逃し、、、
素人童貞と、、、ガチ童貞と、、、居酒屋、、」



と大人になってからこんなシチュエーションは
滅多にないなと少し笑えた。




このくだりは後日思い出し

「私、キモすぎ」と頭を抱えてしまった。

いくらまさおとノンデリカシートークを続けていたとはいえ

後輩の男性が童貞とは予測出来なかった愚かさと

焦った私の言葉

「これから楽しみだね」が

我ながらキモくて堪らない。

楽しみだね、ってなんだよ。
春から小学生になる親戚に話しかけてるみたいだ。
大人の男性にこんなことを言う機会は中々ない。
「これから楽しみだね」って
あたかも自分を「先輩」とし過ぎている。
私は「エロを知り尽くした先輩」ではないのに
なんだかとても恥ずかしい。

それにしても「ガチ童貞です」
とまっすぐに伝えられたあの時の顔は忘れられない。
今後人からあのように告げられる事はないだろう。
まず、人に初めて聞いたし。バージンかどうか。

膝の上に手を置き、少し脇を広げて
前のめりで言われた事も
いつも思い出すと笑ってしまう。

あんなの、武士の挨拶か報告だ。

「薩摩藩出身です」とか
「首を取り逃しました」みたいな。




童貞ってもしかして武士なんだろうか。
確かにその姿はハニカミつつも凛々しかった。



話は逸れたが、
その「ガチ童貞です」の後輩も

今回飲み会に参加することになった。


そのガチ童貞の男の子は
3〜5個くらい年下だが、とても話しやすく
とにかく傾聴が出来て話も広げられて
女性陣でよく「あの人に彼女がいないのは勿体無い」
と話しているほどの、私のおすすめボーイだ。



まさお、後輩の女の子、ガチ童貞ボーイ
の3人は同じ部署にいたため

基本的にその部署の上司の愚痴を聞いた。

皆共通の上司に悩まされており
笑いながら楽しそうに愚痴を話していた
どうやら本当に大変な一年だったらしい。


「前に3人で飲んだ時も、その人の事言ってたよ」

と私が言うと

「えっ、その時から?」

と、まさおとガチ童貞ボーイは驚いていた。
長い間同じ苦境に耐えてきたからか、
以前にも増して絆が深まっているようだった。



この日もまさおは、すぐに酔ったのか

とにかく話が支離滅裂で
終始会話にならなかった。
そしてその様子に私は何度もキレた。


「お前は自分の興味ある話しかしないから
ダメなんだ」と私がキレていると

「確かに、相手の話を聞いてあげなきゃダメですよ」

とガチ童貞ボーイもまさおに言っていた。


「〇〇って本知ってますか」と
最近自分が読んで面白かった本の話をし

全員が「知らない」と言っても
「本当に面白いんです」
「泣けるんです」
とまさおが言うので、

「どこが面白いの?」
「何が泣けるの?」と聞いても

「うーん、とにかく面白いんです」
「泣けるんです」

と、たいした情報も伝えず

少し話が変わってもすぐ

「〇〇って本知ってますか」と、同じ事を聞く

「知らないって言ってんじゃん」
「話も説明できないのにその話すんなよ」

と何度もキレた。

それでも
「本の話がしたい」と言いだすので

「でも最近本読んでないよ」
「読みかけが5冊ある」と話すと

何を読んでいるかとまさおが聞くので

「エッセイ二つと、、」と私が答えようとすると


「エッセイ面白くない。」と

突然ピシャリと言った。



会話に付き合ってやったにも関わらず

すぐにこの有様になるので

私は怒りを飲み込むように無言になった。

後輩の女の子が

「人が好きで読んでるものにそんな事言ったらだめですよ」

とまさおを叱り、ガチ童貞ボーイも
「それはダメだよ」と伝えていたが

まさおは少し焦った顔をするが
特段反省しておらず

私は「お前はさ」とそこからまた説教をした。



その日何度そんな繰り返しがあったかわからない。


私が猫を飼っているといい
後輩のガチ童貞が「あ、猫飼ったんだ」と
私の話を聞き始めると

突然まさおが

「○○さん(ガチ童貞の名前)は猫でイケるんです!」

と言い始め

その場は凍りつき

「あのさ、猫飼ってるし猫好きだって言ったよね?」

と私は真顔でまさおに言った。


まさおは本当に時々アウトすぎる発言をし

その発言に「しまった」という顔もするが

何がダメなのか分かっていない時も多くあった。

私はまさおにキレ続け、
周りから見ると中々に罵声を浴びせていたが
(主に「バカが」「キモい」)
それでも「まさおが悪いかも」と周囲が思うくらい
まさおは発言が終始無神経であった。


なんなら、私の罵倒のおかげで
まさおの発言の罪が薄れてさえいるように思えた。


誇張なしで100回くらい
「バカがよ!」と私はまさおに言っていた。
言うたびにまさおが喜ぶので途中から貶すのもやめた。

私の罵声と、まさおの失言が繰り返され
時に後輩の女の子もガチ童貞ボーイも
「今のはダメですよ」とまさおに注意をしていた。


また、あるタイミングで突然

「僕、チャンスないんですか?」

と聞いてきたので


「ないよ」と即答し

「なんのチャンス?」と一応聞いてみると



「あの、、」と少し固まって

「と、、ともだち」とまさおが言った。


「え?友達?」

「別にいいよ」と答えると



まさおは驚きパッと顔をほころばせ

「や、、やった!」とガチ童貞と後輩の女の子の方を見た。



「よかったですね」と二人が拍手をして

その光景に私は笑ってしまった。



「えっ、なに。いいよ友達でしょ?笑」
「全然いいよ、なに笑」

と笑い

「でも友達なら約束して欲しいんだけど」と

「下心あるなら会えないよ」と伝えた。



「下心、、な、ないですよ!」

と、まさおが少し慌てていたが

本当かよ、という目でまさおを見た。



いつも酔うと近くに来ようとするし

私の肩や膝で寝ようとするのが嫌なのだ。

何度か許して寝かせた事もあるけれど

後から「搾取されている」と感じ、腹が立った。

なので

「お前からはセクハラ費をもらっても足りない」
「金払わずに手近な女を触ろうとするな」
「店で金払ってプロを触らせてもらえ」

と言って
今後飲み会をするときは全てまさおに金を払わせると決めていた。
(役職もまさおのほうが上)

そんな経緯があるので
この男が下心なしで女性と接せれるとは考え難い。

なので、余計に先手を打つしかないだろう。




そして、

「会社のFさんが、女性社員Mさんに
誕生日プレゼントに何をあげようかと悩んでいる」

という話になった。


そのFさんという男性は

変わり者で、困った人なのだが
なんだか憎めず、可愛いところがある人なのだ。

そして付き合ってもいない憧れの女性社員に

誕生日プレゼントをあげようとしているらしい。


その女性社員も、貰ってはあげるだろうが

きっと困るだろうなあ、

でもFさんも純粋過ぎて可愛いなあと話していた。


そしてまさおに


「私は来週お誕生日だよ、何くれるの?」


と聞くと、「何が欲しいですか?」

と少し調子に乗った様子で聞いてくるので

少し考えて

「ココクラッシュ」と答えた。

ココクラッシュとは、シャネルの指輪だ。
最近欲しいと思ったものがそれしか思い出せなかった。


「わかりました」とまさおが言うので


「いくらするかわかってますか?!」と

後輩の女の子が慌てて言った。

いくらなのかと、まさおとガチ童貞ボーイが聞くので

「45万だよ」と答えた。

まさおとガチ童貞ボーイが無言になり目を合わせていた。



本当に貰う気はなかったので、

私はただまさおを煽るという遊びを始めた

「あ、買えないか?(汗)
買えないか?(汗)(汗)
モテないしかっこよくないし
全然喋れないけど、
お金だけはあると思ったけど、、買えないか????(汗)
ごめんごめん、自分で買うね????」


と、悪魔が憑依した私は
ずっとまさおを煽っていると

まさおは「か、買えます!!!」

と言い始めた。


本当に買うのか、、、?
とガチ童貞ボーイと後輩の女の子は少し引いていた。


「いつ買いに行きますか?」

とまさおが言うので


「あ、一人で買いに行く。振り込んで。」

と私が言うと

「一緒に買いに行きたい!」とまさおが言うので


「それは嫌だ」と断った。




その後も色んな事を話していたが

まさおは何かの節で言い訳のように

「今は仮暮らしだから」と言い始めた。


どういうことなのか聞いてみると

社会人になってからずっとレオパレスに住んでいて

家具も家電も買っておらず、付いていたものを使っていると。

家に掃除機もなく、布団も買ってから洗った事がないと。

そしてそれは「仮暮らし状態」であるのだと。

「いつかちゃんとした生活をするんです」と言い始めた。



少し前に「セルフネグレクト」について調べていた私は

その話に即反応した

「生活を正しなさい」

自分もここ数年取り組みつつある事だが、

まさおの生活には改善の傾向がないように見えた。

「そういうのは、セルフネグレクトというんだよ」
「自分を大切にしないと人からも大切にされない」
「他人のことも大切にできない」
「まずはちゃんとした家に引っ越しな」

色んな事を話してみたが、特に伝わってそうにない。


なるほど、セルフネグレクトとは
「自己肯定感の低さ」「無価値感からくる」と聞いていたが

本当にそうなのだろうと感じた。

まさおは、食事もまともに取らない。
面倒くさいのだと。

タバコやコーヒーを好んで摂取しているが
その他は風俗にお金を使うのみで
趣味も本と映画だけ、休みの日は寝ている。

服装は「デニムはリーバイス」「靴はスタンスミス」
と謎の拘りだけあるが
風俗店以外は贅沢は殆どしない生活だろう


その後に移ったカラオケ店で、まさおにこう聞いた

「いつかって、いつ変わるの」

「、、、35歳から」と少し考えてまさおが答えた。


「ダメだよ。すぐやりな。」
「すぐやらないとダメ」
「おい、分かったのかよ」


私はまさおの足を蹴った。


「わかりました」
「生まれ変わりたいとは思ってたんです」



と小さい声で言った。




どうせやらないんじゃないか、と思いながらも

まあすぐにセルフネグレクトやら
セルフケアという概念に気が付くのは
難しいのかもしれないと思っていた。



その後は後輩の女の子はコクリコクリと寝てしまい


まさおはまたすぐに下ネタを話し出した。


「気持ちいいときは〜」と

風俗店でしか経験していないはずのセックスを語り出すので


「お前がセックスだと思ってるものは全て幻想」
「全部嘘だと思った方がいい」
「お金を払わず女の子といざとなった時、
今お前がセックスだと思っているものは全て別物」


と私はまた悪魔になりまさおに言い放った。


「えー」とまさおが
何を考えているかわからない顔をしたが
私はそのまま、事実に織り交ぜながら嘘を教え始めた


「まず、今女の子に全部してもらってる事素人はしないから」
「全部お前がやらないと話にならないから」


まさおは黙っていた。


「キスからしてもらおうと思ってるでしょ
30歳超えてそんなんだと本当に嫌だよ女からしたら」


まさおは聞いてないような顔をした。


「あと、ちゃんと指差し確認しなきゃダメだから。」
「始める前にね」


まさおは嘘に若干気付き
「え?」と笑いながら指差しをし始めた。


「あと、まず事前に飲み物を二人分買うのがマナーね。
水とスポーツドリンク買って、好きな方選ばせるの。」


まさおは黙った。
嘘なのか本当なのか分からなかったのかもしれない。


嘘がスッと思いつかず最後はこう言った

「そんで、セックスの前にアイス買うんだよ。」
「そのアイスを枕元に置いて、
そのアイスが溶けるまでに終えるのがマナー。」


すると今まで黙って聞いていたガチ童貞ボーイが


「そうなの?!」


と声を出した。


L字型の席の、隅に座りながら
右側にいるまさおに嘘を教えていたら

左側のガチ童貞ボーイが突然嘘を信じてしまったようで

「お前も真剣に聞いてたんかい」と私は笑ってしまい

「え?!え、いや嘘だよ笑」


と咄嗟に答えると


ガチ童貞ボーイは
「なんだ〜」という顔をして


まさおは
「え?」と、今までの話が何が本当で
何が嘘なのか分かっていないような顔をしていた。


その日は飲み屋の時点から

ガチ童貞ボーイが、若干「童貞を卒業した」旨を匂わせていた。

私がしきりに

「え?!そうなの?!彼女???なに???」


と、聞いても

「、、、、こんどね」と言い

何時間かに1度

「ねえ教えて!お願いお願い!」

と言っても「、、、こんどね」と言われた。


その度に素人童貞まさおは

「えー!卒業したの?!チクショー!」

と唸っていた。






結局始発の時間までカラオケにいた。




「またみんなで会えますか」と何度も言うまさおに

「別に呼ばれたら行くよ」と答えても

「もう会えないですよね」とまさおは言う。


その繰り返しに苛つきはじめ

「だから、行くっていってんじゃんなんなの」

と、またキレてしまった。




タクシーに乗るため歩いている時に


「流石に今日一日、キレ過ぎたかもしれない」
「罵倒し過ぎたかもしれない」
「かわいそうな事をしたのかも」



と少しだけ反省していたら


後ろを歩くまさおが


「幸せだな〜」と言っているのが聞こえた。





どうやら、これだけ罵倒されキレられていても

まさおは幸せだったらしい。





それならいいか、と
私は反省をやめてタクシーに乗った。


タクシーから、皆に手を振ると

後輩の女の子とガチ童貞ボーイは

こちらに手を振ってくれていて

まさおはなぜかスッとすぐに目を逸らした。




「だからお前はダメなんだ」


と、その時またダメ出しがよぎったが


「それにしても、罵倒ばかりしてしまった」

と考えながらタクシーに乗り込んだ。


家までのタクシーに揺られながら


「あんなにキレたのに、罵倒したのに、幸せだったみたいだな」



「、、、私って罪な女〜」








とふざけた事を思いながら帰宅した。




やはり少し可哀想だったような気がしたので、



「面白かったって言ってた本なんだっけ?」



とだけ後日LINEした。




返信はすぐに来た。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?