見出し画像

ひな祭り(脳腫瘍 3)

 3月3日(木)、肺機能検査、CT再検査。
 CTの再検査は私の脳の状態が悪いからではなく、撮影時の手違いのため。理由は聞いたのだが、自分に関係ないから覚えていない。

 肺機能検査は九段坂病院でも受けたはずだが、どんな検査か忘れていた。
 機械を使って、チューブに勢い良く息を吐き出すもので、単純に肺活量を調べるのかと思ったら、ちょっと違った。吐き出す量というより、吐く勢いを調べるらしい。

 息を吐いた後、画面に息を吐く勢いの曲線が表示されるのを見せてもらった。
 私の曲線は基準に達していなかったのか、「思い切り吐いていないでしょう?」と言われた。
 ゆっくり吐かずに勢いをつけて吐かないといけないそうで、もう1度やったらちゃんとした曲線になった。

 入院してたった2日しかたっていないのに、腕の皮膚にちりめんジワが戻ってしまった。
 腕時計のベルトは去年の秋までは奥から2つ目の穴に留めていたのに、九段坂病院以来1番奥の穴のまま。それでもゆるすぎて、もう1つ穴が欲しかった。

 食事は残さず食べている。
 売店でサンドイッチやおむすびを買って間食もする。
 食欲のないFさんが食べないおかずをもらって食べる。
 Kさんに、「まるで男の子がいるみたい」と言われるほどの食欲だ。
 それなのに体重は増えない。手術までに少しでも体重を増やしておきたいのに。

 ここでは朝食をパンにしてもらったら、おかずもちゃんとパンに合うおかずになった。トーストして出してくれる上に、パン自体がとてもおいしい。
 今朝のメニューは、トースト2枚、ジャムとマーガリン(私はどちらも使わないが)、スクランブルエッグ、ほうれん草と人参のソテー、グレープフルーツ、牛乳。

 この日はひな祭りで、昼食にはちらし寿司とうしお汁、菜の花のからし和えが出た。
 桜餅のデザートまでついて、お盆には銘々におひな様のカードが添えられていた。
 若草色とピンクの色画用紙に白い和紙を重ね、千代紙で折った小さなお内裏様を並べてある。
 栄養部の職員さんたちが1枚1枚手作りしたそうだ。
 その心遣いが嬉しかったので、ひな祭りが過ぎてもしばらくの間、カードを床頭台のティッシュの箱に立て掛け、食事のたびに眺めていた。

 ひな祭りの翌日は雪になった。
 窓から眺めていると、JTビルの濃い色の壁を背に白い雪がふわふわと舞い降り、次第に激しい降り方になった。
 この冬は本当に雪が多い。こんなに雪の多い冬は生まれて初めてだ。

 この日は臼井先生のお話があっただけで検査も何もなく、1日中横になってラジオを聞いたり、ベッドに座って雪を眺めていた。

 夕食後、隣のベッドのFさんと、夜景を鑑賞しに病棟の上の階に行ってみた。
 Fさんによると、虎の門病院は場所柄、一流ホテル並の夜景を堪能できる病室もあるそうだ。
 Fさんは抗がん剤治療のため何度も入院していて、以前はそんな眺めのいい病室に入ったこともあるという。

 私たちの病室は窓が赤坂方面に向いているので見えないが、ナースステーションの前のデイルームからは東京タワーが見えた。(デイルームは入院患者や見舞い客が話をしたり寛いだりする場所で、各階の北病棟と南病棟にある)

 最上階の夜景はさぞ見事だろうと思って13階に行ってみたが、ここは病室以外に窓の外を眺められるような場所がなかった。

 それで、もう少し下の階のデイルームから雪の東京タワーを眺め、ついでにあちこち探検して、8階にある連絡通路の先(本館)に、アイスクリームや飲み物の自動販売機がたくさんあるのを発見した。
 飲み物を買うのにわざわざ地下の売店まで行くことはない。
 しかも、ここの自動販売機は地下の自動販売機より紙パックのジュースや牛乳が10円安い。
 Fさんと2人で得した気分になって病室に戻った。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?