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富士通オアシスの親指シフトキーボード

 当時私が所属していた趣味の会で使っていたのは、ワープロ専用機の富士通オアシスだった。
 かな漢字変換はできたが、動詞の終止形変換は問題ないものの、語尾によっては変換できないものもあった。
 例えば、「走って」は変換できないので、「走る」と変換してから「る」を「って」に直すとか。(この例が正しいかどうかわからないが、こんな風に変換できないものがあった)

 ただ、日本語ワープロの開発は画期的だった。
 それまで、日本には和文タイプライターしかなく、私は子供の頃から、アメリカのテレビドラマなどで見る英文タイプライターがうらやましかった。
 アルファベットは26文字だからキーは26個で済む(大文字はどうやって出すのか知らなかった)が、日本語は50音でひらがなもカタカナもある上、漢字が多いから、英文タイプライターのようなものは無理だと思っていた。

 実際に和文タイプライターを見たのは高校を卒業してからだった。
 ひと抱えもある平たい箱に、漢字の活字をぎっしり並べ、ハンドルというのかレバーというのか、それを打ちたい文字に合わせて上から打っていく。
 タイピストは上から漢字を見て探す。
 その箱の中に打ちたい漢字がなければ、下の段の箱と入れ替えて、打ちたい字を探す。

 よく使う漢字は上の箱に並んでいたのだろう。
 人の名前など、滅多に使わない漢字が必要になったときは、活字屋に活字を買いに行く。
 活字はサイズが色々あるので、何種類も揃えなくてはならなかったと思う。

 それで、日本語ワープロが登場したとき、遂に日本でも10本指でキー操作できる機械ができたと喜んだ。
 趣味の会でワープロを導入したのは幸いだった。

 オアシスは親指シフトキーボードで、1つのキーに2つひらがながついている。
 手前に親指シフトキーが2個並んでいて、右側の文字を打つ場合、右手でそのキーだけ打つと下の文字が、右の親指シフトキーと同時に打つと上の文字が、親指を交差して左の親指シフトキーと同時に打つと下の文字に濁点が付く。
 親指シフトキーを使うときは打つタイミングがずれないように、片手の指2本を使って同時に打つ。
 慣れるまでは大変だが、慣れてしまうとJIS規格のキーボードより速く打てる。

 上の写真では文字が小さくてわかりにくいが、アルファベットもついているので、英文も打てる。

 JIS規格とは、英文字のQWERTY配列のキーボードに、かな入力のためのひらがなを追加したもののことらしい。
 ひとつのキーにひらがなとアルファベットがひとつずつついている、現在ほとんどの人が使っているキーボードだ。

 私は最初親指シフトでワープロを覚えたので、これだと楽だったが、IBM5550はJIS規格のキーボードだったので、ローマ字入力も覚えた。
 ただ、仕事で入力業務があるわけではなかったので、ちゃんとブラインドタッチができなかった。
 ビジネススクール時代にゲーム感覚でブラインドタッチの練習をするソフトの開発者から、テストと監修を依頼されたので、このソフトを使って練習し、多少は上達した。

 JIS規格のキーボードの場合、ローマ字入力はひらがな1文字を入力するのに2つキーを打たなくてはならない。
 かな入力は1番上の数字が付いている行のキーも使うから、手の指を目一杯伸ばして打たなくてはならない。
 その点、親指シフトは効率的だ。

 何年も後になって日本語ワープロ検定試験ができたとき、2級以上の合格者は親指シフトが多く、JIS規格でローマ字入力やかな入力する人は3級止まりになることが多いと聞いた。

 私も試しに検定試験の問題を時間を計ってやってみたことがあるが、親指シフトだと2級レベルの速度が出た。

 自営業になってもワープロは必要だったので、ラップトップのオアシスを買った。
 ラップトップといっても、今のノートパソコンよりずっと大きく、膝の上に乗せて使うには重すぎた。
 フタがディスプレイになっているのは今のノートパソコンと同じだが、持ち運びできるように手前に取っ手が付いていたので、家の中で都合のいい場所に持ち運んで使っていた。

 これを開いて文書を作り、ディスプレイを閉じて向こう側に付いているプリンターに用紙をセットすれば印刷できた。
 親指シフトではなくJIS規格のキーボードだったが、長いこと重宝した。
 iMacを買ってからもしばらくプリンターは買わなかったので、iMacは主にネットやメール、印刷する必要のある文書作成はオアシスを使っていた。

 もう一点、オアシスの罫線には特徴があった。
 オアシスの罫線は行間に引かれるので、罫線のためのスペースを確保する必要がなく、出来上がりの表がコンパクトだった。
 その後の「一太郎」などパソコンで使うワープロソフトでは、文字列と同じ行や列に罫線が引かれるため罫線のためのスペースが必要で、行幅を調整する必要があった。

 オアシスの操作方法は、引きたいところにカーソルを置いて矢印キーを移動させるだけなので(何か他のキーを押しながら矢印キーを移動させたのか、罫線ボタンを押してから矢印キーを押したのか、そこは忘れてしまったが)、とても簡単だった。
 罫線の削除も然りで、削除キーを押しながら矢印キーを押すと罫線が削除された。
 線の種類も細線、太線、点線があった。

 今は仕事でワードを使っているが、罫線の引き方はオアシスに比べるとずっと面倒臭いので、自分では引かずに別のページ(または文書)の表をコピぺして修正している。

 親指シフトの富士通オアシスは大好きなワープロだった。

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